【第2章】金と羊はトラブルの目印_003
「えっ!?ちょ、ちょっと何してんだあんた!!」
「何って、輝きを強めているだけですわ」
「それは見れば分か……ごめん直視できない!直視はできないけど分かるわ!」
「まさにそれが狙いです」
「はぁ!?」
「人の視線が気になるのでしょう?でもこれなら誰もこちらを直視できません」
エルミーナは微笑んで言った。
「言ったでしょ?あなたのツノなんか隠れてしまうくらい、わたくしはすごく目立ちますのよ。他の方には少し眩しいかもですが、我慢してもらいましょ」
「我慢してもらうって……」
ローラッドが『感度自在』で目を慣らしながらなんとか周囲の様子を伺うと、通行人たちはあまりの眩しさに顔をしかめ、もはやひとりもこちらを見ていなかった。
眩しさのあまり、他の道や建物の中に避難した者もいるようだ。
「軽く事件になってんじゃねえか!こんな大迷惑をかけるくらいなら俺にこの角をを隠させてくれれば……」
「フードでも被るつもりですか?こんな朝から顔を隠して歩いていたら、それこそ目立ちまくってあらぬ噂が流れまくりですわよ」
「ぐっ……それはそうかもしれないけど」
「それに、これで彼らもむやみに人のことをじろじろと眺めまわしたらどうなるか、良い薬になったんじゃありませんの?」
エルミーナは得意げに胸に手を置いて語る。
「わたくしは目立つのが好きですが、見られたくないときもありますの。ハッキリとその意志を示すことが大事なのです」
「なんだか慣れてるな、あんた」
「まあ、今回の方法は、昨日あなたに教えてもらったようなものですけれど……」
ローラッドの眼前にズビシ!と真白い細指が突きつけられる。
「衆目の扱いに関してはわたくしに一日の長がありますの。ダテに貴族令嬢をやってはいませんので!」
そして口に手を当ておほほほ、と楽しそうに笑うエルミーナ。
世間一般の令嬢のイメージそのまんまな振る舞いをする少女に対し、羊角の少年は「けど」と食い下がる。
「やっぱ俺はこんなやり方じゃよくないと思う。輝きを元に戻してくれ」
「それだとまたわたくしたちは衆目を集めてしまいますわよ?」
「いい。よく考えれば、いまさら角が目立ったからなんだってんだ」
ローラッドは自らの前髪を摘まんだ。
周囲と異なるといえばこの髪もそうなのだ。
リリスがだれとまぐわった『結果』なのかは知らないが、どこの世界にこんな漆黒の頭髪をした人間がいるというのか。
「俺が『浮いてる』のは元からだしな。それで他の連中に迷惑をかける方が気に食わん」
「まあ、あなたがいいならいいですけど」
少女がふぅ、と息を吐くと、黄金色の輝きはまるで沈む夕日のようにゆっくりと減っていき、ついに普通の状態まで戻った。
普通、といっても少女はほんのり黄金に輝いてはいるのだが。
「……ローラッド、気を悪くしないで聞いてほしいのだけど」
「なんだよ」
「思ったより善人ですのね、あなた」
少女の率直な感想にローラッドは噴き出しそうになる。
「思ったより、ってなんだよ。俺が悪人にでも見えていたのか?」
「そりゃ初対面の女性を裸に剥いたあげくあのような扱いをしてさらに家に連れ込んで……」
「最後のはあんたが仕掛けてきたんだろ!?」
動揺する少年を見て、エルミーナはくすくすと笑った。
「冗談ですわ。でも、これから楽しくなりそうね」
「何が」
「わたくしの『学園』生活が、です」
エルミーナは胸を張って言う。
「プライマルに関する知識を深め、『学園』を首席で卒業し、研究成果と在学中に築き上げた交流関係を元にアルゴート家の存続を盤石なものとする。わたくしの『夢』ですわ!」
「『夢』……」
『夢』。
ローラッドにとっては、なんともイヤな響きのする言葉だ。
「あなたにも『夢』はありますの?」
「……今後の展望というか、将来の目標みたいなもんは、一応」
「ねえ、わたくしに聞かせて下さらない?お互いに協力し合えるかもしれないし」
「なっ」
純粋な興味の眼差しを、ローラッドは直視できない。
「だ、ダメだ。教えない」
「えー教えてくださいましよ~。精霊に誓って、誰にも言いませんわ!」
「教えないって言ってるだろ!ほら、もう『学園』の門も見えてきた。とっとと行こう」
「あ、ちょっと!」
エルミーナはいきなり走り出したローラッドを慌てて追いかける。
(いったい何をそんなに恥ずかしがっていますのやら……やっぱり『魔族』の帝王になるとか、そういうのかしらね?)
適当に想像しつつ、少年に続いて『学園』の大正門を通過。
「あでっ!?」
して、少女は立ち止まっていたローラッドの背中に衝突した。
「いったい何ですのいきなり立ち止まって」
「それがこいつら」
「お嬢様!こんな時間にご登校とは……『親衛隊』は皆心配して居りましたよ!」
悲鳴にも似た女性の声が少年の声に割り込む。
「一体どこにいらしたの!?」「皆で探しましたのよ!」「その殿方とはどういう」
「落ち着きなさい、あなたたち」
さらに続く女子たちの声を、群れの先頭に立つ少女は手にした得物の一振りで制する。
ビュンッ!と音を鳴らしたそれは、子供の背丈ほどもある『棒打ち刑』用の懲罰棒。
「やはりあなたでしたか、『害虫』さん?」
その持ち主、白金色のおかっぱ少女は怒鳴ったわけではなかったが、その凛とした声は確かな怒りを滲ませていた。
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