【第1章】指輪と光と犬とキスと_013
ブラッディの『手助け』から数分後。
殴り飛ばされてなお抵抗するエルミーナに服を着せることに成功したローラッドとブラッディは彼女を椅子に座らせ、自らはその対面のベッドに腰掛けて質問を始めていた。
「それで、なんだって突然俺を性的に襲おうとしたんだ?もうちょっと具体的に教えてもらうぞ、淫乱令嬢エルミーナ」
「わたくしに不名誉極まりない二つ名をつけるのはやめてもらえる!?」
「でも俺を押し倒して、その、子作りしようとしたのは事実だろ。認知がどうとかも言ってたけど」
「……それは、言ったままです。わたくしの貞操を汚したのですから、あなたが責任を取ってわたくしに次世代を支える子を産ませなくちゃいけないの」
エルミーナは赤面しながらも、真剣な顔で答えた。
対するローラッドは軽く頭を抱えた。
「なぜそこまでの義務感がありながらキスごときで子供はできないと知らないんだ……」
「だ、だって!お父様は仰っていましたわ!男女が裸で抱き合い、キス等をしつつ同衾すると子ができると!」
「じゃあもしかして、裸を見られたらそいつと結婚しろと言ってんのもそのお父様なの?」
「『結婚する者以外の男に裸を晒してはいけない』と教わりました。これは逆に『裸を見せたら結婚しなくてはならない』のではなくて?」
「んなワケねーだろ、じゃあお前は『資質検査』のときの検査員の連中全員と結婚すんのか?」
「あら?わたくしは『資質検査』で殿方に裸を晒してなどいません。お父様が手配して、すべて女性の方が検査してくださったの」
「……そうかい」
ローラッドはため息をつきつつ、エルミーナの『親衛隊』とやらも女だったことを思い出していた。
あれもどうせ彼女の『父親』の差金なのだ。相当なカタブツ親父なのだろうだと容易に想像がつく。
互いに黙り込んでしまい、空気がよどむ。
それを「くだらねぇな」と一蹴したのは、コウモリの翼を持つ桃色の少女だ。
「そんで?娘のことを清潔な孕み袋程度にしか考えていない父親にクソ真面目に従ってこんな奴に操をささげに来たってわけか。ハッ、『学園』イチの優等生様が聞いて呆れるぜ」
「なんですって!?」
金髪の少女が立ち上がって応じる。
「聞き捨てなりませんわね!?ローラッドのことはどう言っていただいても構わないけど、お父様への侮辱はこのエルミーナが許さないわ!」
「許さなかったら、どうするってんだ?お得意のピカピカ攻撃でぶっ殺してみるか?やれるもんならやってみろよメス犬が」
「いっ、犬になったのはそこの彼の変態趣味のせいであってわたくし自身にはなんの責もないじゃない!」
「なあ二人とも一旦落ち着けよ話が前に進まねえ」
いがみ合う桃と金。一触即発の雰囲気をどうにかしようと割り込んだローラッドは2方向から睨まれた。
「なあご主人。このメンドクセー状況も全部オマエのせいなんだぞ?オレをこんな目に遭わせておいて、まだペットがご所望とはお盛んなこった」
「それを言うならローラッド、あなたがあんな目に遭わせなければわたくしだってこんなところに来る必要などなかったということ、忘れてはないわよね!?」
だいたい!と勢いあまったエルミーナはブラッディの方をビシィ!と指さして続ける。
「この方はいったいなんなんですの!?わたくしは見ましたのよ……この方があなたの『影』からぬるりと出てくるのを!まるでお伽話の『魔族』じゃないの!」
「エルミーナ、それは……」
「『魔族』みたいって、そりゃそうだろ」
ローラッドが誤魔化す前にブラッディは嗤いながら告げる。
「オレもご主人も、オマエらの言うところの『魔族』なんだから」
「……えっ」
「いま言っちまってどうするよ……」
ローラッドがちら、とみるとブラッディはしてやったりという表情だ。
なるほど、嫌がらせが目的のようである。
(なんだってこんな時に限って機嫌が悪いんだブラッディのやつは……)
心中愚痴りつつ、ローラッドは面食らって固まっているエルミーナを再度椅子に座らせた。
「細かいことは一旦省くが、まあ、そういうことだ。俺は『魔族』の女王の親族……というかその息子」
「息子って言われても……『魔族』とは具体的にはなんなんですの?」
「まあ、アレだ。吸血鬼的な」
ローラッドは自らの出自が夢魔であることを伏せることにした。
夢魔というともう本当にただのエロ悪魔みたいだし、吸血鬼の方がかっこいいし。
「あんたに散々味わってもらった俺のプライマルは母親譲りの能力だったんだ。それを無理やりお前らの言う『根源資質』とやらに当てはめて解釈しようとするから『未解明』なんて判定になる。そしてそこのそいつ、ブラッディは俺の母親との『契約』に従って幼い頃から俺の護衛を指示されている吸血鬼だ……俺と同じく」
同類にするな、と言外に語るブラッディの突き刺すような視線が痛い。
「正確には『元』吸血鬼だ、ご主人。誰かさんの母親のせいで今じゃただの小間使いがせいぜい。命令がなけりゃ影から出られず、元の姿でいられるのも夜限定の、『ありがたい』立場を享受させていただいているのさ」
「な、なるほど……?」
エルミーナは目を白黒とさせていたが、自分なりにどうにか言葉を解釈した。
つまりこうだ。
「ずいぶん凝った設定なのね……?でも大丈夫。わたくしバカになんてしませんわ。お父様が大切にしまっていた日記帳にも似たようなことは書かれていましたし、殿方は年頃になるとそういうものに憧れるのが自然だとも聞いているし」
「……もう今はそれでいいや」
ローラッドは肩をすくめる。
プライドと重さ比べをした結果、イチから全部理解させる面倒が勝った。それだけのことだった。
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