【第1章】指輪と光と犬とキスと_012
先ほどまではもうやめて、とでも言いたげであったはずのエルミーナの様子がおかしい。
眼光が獲物を前にした肉食獣のソレというか、ある種の『覚悟』が宿っているような。
そして一方でローラッドの方はというと、彼女が降参しない場合のことを全く考えていなかった。
(この後は、どうしたらいいんだ?)
彼は一応、淫蕩の女王の息子だ。
しかしローラッドにはその手の、いわゆる異性との(まともな)経験がないのだ。
(えっこのままの流れだと本当にいくところまでいかないと諦めないのかこいつ?嘘だろ!?)
ローラッドは正直、際どい格好どころか丸裸の女くらいなら全然見慣れている自負があった。
母親もその手下も、まともな服を着ているのは数えるほどしかなかったし。
だが、感情をまっすぐぶつけられることには、まったく慣れていなかった。
「ねぇ、ローラッド……わたくしを、ちゃんと、愛してくださらない?」
黄金の少女は問う。
「愛するって……今日会ったばかりだぞ!あんた正気か!?」
「ええ、狂っているのかもしれませんわね。でもわたくしを裸にしたからには、あなたはわたくしと結ばれなければならないの」
エルミーナは熱っぽく吐息しながら、しなやかな指でゆっくりとローラッドの肩を抑え、もう片方の手であごを掴んだ。
彼女の身体から発せられる光の色はどういうわけか黄金色から薄桃色に変化している。
「不本意でも関係ないわ。覚悟なさい」
「……っ!」
エルミーナの覚悟が決まりきった瞳に射抜かれ、耐えられなくなったローラッドはギュッと目を閉じた。
まるで初夜を迎えた乙女が自らの伴侶に唇を差し出す格好。
「意外とかわいいところがあるのね、あなた。じゃ、じゃあ……いきますわよ……」
金髪の少女は震える声で宣言し、そっと、組み伏せた少年に唇を重ねる。
(なっ、なにこれ……?)
ローラッドの思考は疑問のあまり停止していた。
その疑問は奇妙かつ唐突な状況に対するものだったのか。
それとも、今まで自分がされてきた淫靡で一方的に貪られるような接吻とは不思議と異なる、やさしいくちづけに対するものなのか。
彼の思考が再開するよりも早く、エルミーナが身を起こし、柔らかな感触が離れていった。
「どう、かしら?」
少女が感想を問う。
しかし先述の通り、ローラッドはまだ状況を何も呑み込めていない。
「どう、とは?」
彼が返す言葉はさらなる質問のみ。
対する少女は桃色に発光しながら応える。
「これで、あなたとわたくしの間にこっ、子供ができてしまうのよ!?」
「……えっ、なんだって?」
ローラッドは耳を疑った。
「だからっ!わたくしたちは男女で、裸で接吻した!なら子供ができるのが世の理!もう逃れられませんわよ。それとも、認知しないって言うのかしら!?」
「すまんが本当に意味が分からん」
「あくまでシラを切るというのね?」
エルミーナの声色の変化を聞き、ローラッドはすぐに自らの悪手を悟った。
少女を包む光が元の金色に戻り、輝きを増していく。
その赤面は恥じらいか、怒りか。
「わたくしはアルゴノート家の令嬢として、一族を繁栄させる義務がある。あなたがあくまでも認知しないというのなら、認知したくなるまで焼いていくまで!さあ、こんがりしたくなければ認知しなさいッ」
「たっ……」
ローラッドはもう、限界だった。
「助けてくれ!ブラッディ!!」
「りょうかいっ!」
「ぶへっ!?」
叫び声に呼応し、少女の輝きに照らされた彼の影から握り拳が飛び出し、のしかかっていたエルミーナを殴り飛ばした。
「いったい何事ですの!?」
「クソッタレの使い魔だよ、脳内桃色の変態淫乱お嬢サマ」
突如殴られて混乱したエルミーナの叫びに、ローラッドの影から現れたもう一人の少女が桃色の髪をうざったそうに搔きながら応えた。
「こうなる前にさっさと呼びやがれ、このボケご主人っ!」
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