【第5章】藍の迷宮と羊の夢_021
「あ?なんだそりゃ」
緊張で心臓が早鐘を打ち、数秒が数時間にも「まあいいぜ」「えぇっ!?」思えそうだったが、想定よりも早く、そしてあっさりと返事が返ってきたのでローラッドは思わず声を上げて驚いてしまった。
「オマエから頼んできたのになんで驚いてんだ?」
「そりゃだって、結構荒唐無稽なことを言っているだろ、俺……?」
「まあな」
唖然としているローラッドとは対照的に、マリュースは何でもないとばかりに頬を掻く。
「確かに何言ってんだって感じだけどよォ、そもそもの話オマエが常識じゃあり得ねえリスクを取ってるのを見せつけられちまってるからな。少なくとも冗談で言ってるんじゃねえってことくらいは分かるっての」
「い、いったいどういう……」
「だからよォ」
マリュースは妹の肩を揉みながら、ため息交じりに言う。
「ファレニアから懐柔しようとは、考えてもフツーは実行しねえんだよ。ちょっと考えてみろ、コイツキレさせたらあっというまに中毒死一直線だぞ。しかも下手に危害を加えようもんなら、オレが出てきて殺される」
「お前それ自分で言うのか……」
「そりゃそうだろ。なあ?」
「んー、そうだね……」
心地よさそうに目を閉じて微笑むファレニアも軽く頷く。
「『藍色』は触れるだけでおおけがする。さいあくしぬ。なのに、にもつもちはわたしのてもさわるし。いのちしらず」
「そりゃ……『手段』は選んでられないから」
「オレが手を貸す気になったのはまさにそこだな」
マリュースはギラリ、と歯を見せながら笑う。
「リスクは取るが、ちゃんとスジも通してやがる。ファレニアに苦労を掛けやがったのは頂けねえが……騎士共が来たときに保身に走らなかったしな。アレを見て頼みのひとつも聞かないほど、オレは鬼じゃねえさ」
「マリュース……」
「ああでもよォ!やっぱまだ『お釣り』がある気がするから、今度あの『本気モード』でケンカしてくれよ!!それでチャラにしてやる!」
「……なんだって?」
羊角の少年がせっかく不良のふと見せた心意気に感動しかかっていたのに、当の本人はぎらつく目で獣の瞳を見ながら『提案』した。
「オマエ、さっきまで翼も6枚で目の色も違ったじゃねえか!アレって要は本気を出してたってことだろ!?ナメやがって、オレと前にケンカした時は本気じゃなかったんだよなぁ!それなら本気を出しているお前を叩き潰せばあのケンカも実質オレが勝ったことになるよなァ!」
「ま、まあ分かった。ケンカは、今度やろう。とりあえず話を進め」
「ローラッドッ!!!遅くなりましたわね!!!!」
ローラッドが興奮するマリュースをどうにかなだめようとしている最中、ドガァ!と蹴破られたかと思う勢いでドアが開き、『黄金』の光が部屋に差し込む。
「ただいま戻り……うわなんですのこの人口密度!?こんな狭い部屋に、3人も!?というかあなた方、アダミスキー兄妹!?ファレニアさんはともかくなんで兄の方までここにいるのです!?」
「あっテメー金ぴか女!いつぞやは世話になったなァ……あの時焦がした手の火傷がうずくんだ。今度こそ決着をつけねえか?」
「そんな時間はありませんの!ローラッド、それよりもすごいですわよ!皆さま思ったよりも多くの兵を……やっぱ狭すぎますこの部屋!ちょっと、どうにかしませんと!!!」
「確かにオレも狭いと思ってたんだ、良いこと言うじゃねえか金ぴか女!そうだな、壁をぶち抜いて隣の部屋と繋げれば広くなるか?」
「それですわ!不良生徒の割には良いことを言うじゃありませんの。それならさっそくわたくしの『光』で……」
「壁をぶち抜くならオレの『手』の方が早い」
「なにをっ!となりはわたくしのお部屋ですのよ!!わたくしのほうが上手くできるに決まっていますわ!!!」
「おっやるか?ならさっそくケンカ」
「ああもう落ち着けお前ら収拾がつかなくなってんじゃねえか!『夢幻夜行』ッ!イヌミーナ、お座りッ!」
「わおんっ!!!」
「あにさまもおちついて。おすわり」
「あぁ?なんだよそれどころじゃ」
「おすわり」
「チッ……」
とにもかくにも、ローラッドはマリュースに協力を取り付け、エルミーナも無事に戻ってきた。
あとは、吸血鬼たちを『説得』するのみ。
前途多難な最終工程を前に、夜闇が街を覆っていく。
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