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【第5章】藍の迷宮と羊の夢_018

「起きたらファレニアがいねえからどこに行ったのかと思ってたが……まさかメシ食いに来たらちょうど同じ場所で大暴れしてるとはな?」


 マリュースは少し身体をゆすり、おぶっている妹を背負いなおした。

 ローラッドの『装甲解除』によって服が全て分解してしまっていた妹には、すでに兄の上着が着せられている。


「ビヤスト全体が封鎖されてるわ騎士どもが出張って来ているわでここまで来るのはそりゃあもう大変だったんだ。んでいざ騒ぎの中心地にたどり着いてみたら、真裸(マッパ)にひん剥かれたファレニアの隣にオマエが倒れてたってワケだ。それで最初の質問に戻るんだけどよ……」


 ごり、と。

 マリュースは自分の額をローラッドの額にめり込むほど近づけた。


「オマエ、ファレニアとナニしてたんだ。あぁん?」


 実際に触れることはないが、しかし、マリュースの身体の表面で『圧縮』された空間が羊角の少年の頭に圧力をかける。

 その表情はもはや笑っていない。

 純然たる敵意が、獣の瞳を刺し貫いていた。


「え、えっと、その……」


 ローラッドはなんとか目の前の高身長不良異能力者の怒りに油を注がない言葉がないものかと、必死に頭脳を働かせる。


 そりゃ、視線は合っているのだから『夢幻夜行』の発動にさえ成功すればマリュースを無力化できる。

 だが、少しでもそういう隙を見せた瞬間、マリュースの『神の手』によって空間ごと躊躇なく『丸めて捨てられる』だろうと。

 そういう具体的な脅威がちらつき、ローラッドは身じろぎひとつ自由にできなかった。


(こ、この状況からこいつを説得して仲間に引き入れるって……どんなミラクルが起きたらそうなるって言うんだよ!?)


 元より線の細い『策』ではあった。

 だがしかし、よりにもよっていちばんキツい詰み方になるとは。


(どうにか嘘をついて誤魔化すか?いや、嘘がバレたらそれこそ『策』が丸ごとダメになりかねない。けど正直に話したって、『指輪』にファレニアを乗っ取られただの、『夢』に潜ってそれを取り除いていただの、何を信じてもらえるってんだよ!?常識的に考えてそんなこと……)


 思い悩むローラッドの脳裏に、ふと、明かりが灯った。


 常識の上で足踏みをせずに進め。

 どっかの黄金の誰かさんが、いつだったか自慢げに言っていた家訓だった。


「あんたに渡すプレゼントを選んでたんだよ、マリュース」

「あ?」


 そもそも常識的な状況ではないのだし。

 ならばもう、出たとこ勝負だ。


「俺はファレニアに頼みごとがあったから、それの交換条件としてファレニアと一緒に、あんたに渡す誕生日プレゼントを選んでたんだ!それを教会に『祝福』してもらいに行ってたら、俺の『指輪』の中のやつが暴走して、ファレニアを乗っ取って暴れて、それを俺が『夢』の中に入って取り除いて、現在に至るっ!これが、俺がやったことだ!!」

「…………あ、っと???」


『歩く厄災』、その兄の方はゆっくりと首を傾げた。

 羊角の少年が半ばヤケクソになってこれまでの経緯を全部一気に話したことで、マリュースは思考リソースの大半を食われてしまったのだ。


 プレゼントで、祝福で、指輪で、夢が、なんだって?という具合に。


「しょうがねえな……とりあえずいったんボコったら本当のことを話してくれるか?」

「何もしょうがなくない!ぜんぜん譲歩になってない!と、とりあえず俺はあんたの妹にやましいことなんか何にもしてない!本当なんだって!」

「ンなワケねーだろファレニアは真裸(マッパ)だったんだぞ」

「そ、それには深いワケが……」

「ワケがあるって、でも裸は見たんだよな?まあ落ち着いて一回死んどけやエロ羊野郎」


 マリュースが拳を振り上げる。

 もちろんただのゲンコツなどではない。

 空間を直接捻じ曲げられ、その鉄槌が下された者は物理的に原型をとどめていられない最強の『根源資質(プライマルセンス)』、『神の手』。

 羊角の少年がもはやこれまでか、とあらゆる覚悟を決めた時だった。


「まって、あにさま」


 不意に聞こえた少女の声が、その兄の拳をぴたり、と止めた。


「ファレニア、起きたか。大丈夫、いまこのクソ野郎をお兄ちゃんがボコボコにしてやろうと」

「それをまってと言っているの。はやくおろして」

「いやオマエさっきまで倒れて」

「いいからおろせ」

「……わかったよ」


 膝を突いて屈んだ兄の背中から、『神の手』によって摘ままれた藍色の少女が地面に降ろされた。

 ファレニアはそのままぺたぺたと歩いて兄と羊角の少年の間に入り込むと、地面にへたり込んでいる少年に手を伸ばす。


「なんてざまなの、にもつもち。ほら、手をかしてあげるから、立って」

「あ、ああ。ありがとうファレニア」


 ローラッドは少女の意図が読めず、困惑しながらもその手を取って立ち上がった。


「っ!」


 それを見ていたマリュースが目を丸くした意味は、羊角の少年には分からなかったが。

 ファレニアはローラッドに少し笑いかけると、兄の方を振り向いて言う。


「ね、あにさま。にもつもちは……」

「そこの君たち、動くなっ!!!」


 だが少女の言葉は、ぶしつけに割り込んだ声とそれに続く重たい金属の足音に遮られてしまった。


 横一列に並び立つ鉄の鎧。

 既に引き抜かれた両刃の長剣、引き絞られた弓。

 そして、騎士団を率いて列の真ん中に立つ女騎士、アンナは構えたその剣先をまっすぐ『藍色』の少女に向けて、言う。


「ファレニア・シストキシン。我々は法に基づき、あなたを拘束しなければならない」


 それは『根源資質』を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に対する、無慈悲な宣告だった。

読んでいただきありがとうございます!

遅くても3日ごとに更新予定!

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