【第5章】藍の迷宮と羊の夢_016
「ウオアアアアアアアアアアッ!!!」
建物を飛び出した人々は人間性を感じさせない雄たけびを上げながら、広場中央部に陣取っているサマエラへ向かって駆ける。
その目は虚ろ。
それも当然で、ローラッドが彼らに施した洗脳……『夢幻夜行』は現在、元となったリリスの『支配』に近い出力。
ローラッドの『眷属』と化した彼らははもはや目の前の敵を倒す目的以外のことを忘却し、恐怖も感じない生ける屍のようなものだった。
「ホントに容赦ないね、お兄ちゃん!関係ない人もこんなに大勢巻き込むなんて!」
「それが俺の覚悟だ、サマエラ」
サマエラがローラッドを怒らせようと放った言葉を、彼は即答で跳ねのけた。
「最終的にどこかで『償う』必要があるとしても、俺はリリスを倒すまで止まるつもりはない」
「……あーっそう!それならさぁ、そこまで言うならさぁ!」
自らを見下ろす獣の瞳に怒りを露わにした魔性が両腕を広げると同時、粘性の『藍色』が急速に渦を巻き始めた。
「ここにいるやつら、全員ぶち殺しても文句はないってことだよねぇ!!!」
サマエラの叫びと共に、『藍色』の水が地面を駆ける者たち全員をなぎ倒すべくその足元へ放たれた。
広場の地面を覆い尽くすに余りある量の腐食毒が、人間の走行速度を遥かに超えたスピードで塗り広げられていく。
だが。
「イバラァ!あいつらの足場を頼む!!」
「かかかかしこまりましたぁっ❤」
ローラッドの叫びに場違いなほど黄色い声が応答した直後、緑色の触手のようなもの……巨大なイバラが広場のタイルを突き破って出現した。
突き進む眷族たちはそれに駆け上り、『藍色』の侵食を逃れる。
「あ、あの煩悩女……!」
サマエラが睨みつけたのは、彼女の正面にある建物、その屋上。
「で、で、でデーモンロードさまがじ、じ、じ自分の名前を呼んでくれるなんて❤いや、自分イバラって名前じゃないし明らかに役割で区別されているだけのモブも同然なんですけどそれはそれで解釈一致というかもうイバラって名前に改名します❤精霊に誓ってそうします❤❤❤」
何かを呟く陰気そうな女は、屋上に生い茂ったイバラのドームの中央に位置取って気味悪く身体をくねらせている。
そう、彼女こそが広場にある全てのイバラを制御する『眷属』だ。
「あいつをさっき消しておけば……!」
「後悔するより先にすることがあるんじゃないか?サマエラ」
「っ!?」
『イバラ』と呼ばれた女に気を取られていたサマエラは、すぐ近くで聞こえた声で我に返った。
だがそちらの方は振り向かず、自分を覆い隠す『藍色』のバリアを展開する。
「ち、近づくなっ!」
「おっと危ない」
ローラッドは隙を突いてサマエラのすぐ横に迫っていたが、土壇場で振り向くのを我慢したサマエラと目を合わせることができず、『藍色』が降り注ぐ中で再びその場を離脱する。
「どうしたサマエラ。いまのお前なら俺と目を合わせたって、『夢』への侵入を防げるんじゃないのか。それとも、もう『疲れてきた』のか?」
「コッソリ近づいてくるとかキモいんだよっ!リリスに反抗する『悪い子』のクセに、調子に乗っちゃってさぁ!」
「じゃあそんな『悪い子』から忠告してやるが、周りをもっとよく見た方がいいぞ『いい子』ちゃん?」
「なっ!?」
ローラッドが親切にも指差したのは、伸びたイバラの道を上ってサマエラに迫る『眷属』たちだ。
『藍色』の腐食毒はイバラを段々と枯らしているが、そもそものサイズが大きすぎてまったく間に合っていない。
そう、サマエラが対処しなかった羊角の少年の『眷属』たちは、広場の中央に向かって伸びたイバラを足場にして進み続けていたのである。
「くそっこいつら……!」
サマエラは『藍色』の腐食毒を操り、イバラの上から『眷属』たちを叩き落そうと試みる。
だが、どの攻撃も当たる寸前に足場となっているイバラが動いて『眷属』たちの位置を変えてしまい、芯を捉えたヒットにはならない。
「ちょ、ちょこまか動くなぁ!!!」
「そそそっ、それは無理な相談ですっ!」
怒りを通り越して焦燥の叫びを上げるサマエラに返事をしたのはローラッドが『イバラ』と呼んだ女。
「でで、デーモンロード様からな、なるべくみんなをケガさせないようにって頂いた力でっ、ここっここからでもあなた方の状況はててっ手に取るように分かるんです!なんだかイバラちゃんたちもいつもより元気だし、ああ素晴らしい❤デーモンパワー❤」
「ふざけてるくせに、ふざけてるくせにぃっ!!!」
「……」
泣き叫ぶサマエラを見下ろすローラッドは、敵であるはずの魔性に不憫を感じていた。
(たしかに、あの女だけちょっと変なんだよな……)
ローラッドが『夢幻夜行』によって『眷属』にしたのは彼女以外の広場にいた人間だ。
ではイバラを操る女はと言うと、ローラッドが声をかけた時点ですでに十分協力的だったのである。
まるで触手のようにイバラの成長を操れるという『根源資質』をより素早い判断で使えるように『夢幻夜行』で多少自信をつけさせたり、『感度自在』で五感を強化したりはしたが、ひとりは話が通じる者が必要だろうということもあって根本的な精神を大きく弄るようなことはしていないのだ。
言うことを聞いてくれるのは助かるのだが、彼女のそれは少々信仰めいている気がして、ローラッドは後々面倒なことになる嫌な予感を振り払えずにいる。
(『手段』を選ばない、ってのがこんな方向でも大変だとはな)
ローラッドは長いため息を吐きたくなったが、今はそんなことをしている場合ではない。
そろそろ頃合いだ。
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