お見舞い
私は大事にしていた絵本を桜さんに没収されてしまった。それは自業自得と言えばそうなんだろうがまだ未熟な私は納得ができていない。
桜さんに何度も返して貰うよう意見をしたが、一切受け入れてくれることはなかった。
たった一週間。
たった一週間の没収のはずなのに絵本が恋しくて仕方ない、それは私が家族と繋がれている唯一のものがあの絵本だったからだ。
入院して二カ月、家族が誰もお見舞いに来てくれてない、そのせいもあってか絵本が私の手を離れると大好きな家族も私から離れてしまう、そんなことがあるはずもないのにそう思い込んでしまっている。
「よし、じゃあ絵本を取り返しに行くか」落ち込んでいる私に声をかけてくれたのは拓馬だった。
そう言うと拓馬は急いでナースステーションまで走り、桜さんに「ごめんなさい。オレが無理やり綾を誘ったんだ、だから綾は関係ない。お願い絵本を返してやってくれ」深々と頭を下げ、何度も何度も謝っていた。
「いや~、一人にだけ返すってのも他の子供達に申し訳ないというかなんというか、、」
必死に謝る拓馬の姿をみて、桜さんは気が引けたみたいだ。
やんちゃな私達に少しばかりお灸をすえようと没収したはずなのに、まさかここまで必死に謝ってくるなんて思ってもいなかったのだろう。
戸惑う桜さんに拓馬は「オレの音楽プレイヤーを桜さんにあげるから、頼む、綾の絵本だけでも返してくれ」そう言った。
拓馬があの音楽プレイヤーを大事にしていることは病院内にいる人はほとんど知っている。もちろん私もその事を知っていた、だからこそ嬉しかったし複雑な気持ちになってしまった。
無理やり脱出作戦に参加した訳でもないし、私の意思で参加したはずなのに、そう思うと自分が恥ずかしくなり私も桜さんに謝りに行こうとした。
「わっかったよ。明日返すからもういい? まだ仕事が残っていて忙しいんだよ。あたしだってアンタ達を悲しませるために没収したんじゃないよ」と桜さんは飽きれながら拓馬に言った。
「え、ほんと桜さん。ありがとう」拓馬はそう言うと満面の笑みで私の所に走ってくる。
「明日、明日になれば絵本返してくれるんだって」自分の事の様に嬉しそうに言う拓馬に、私は少し顔が赤くなり恋心に近いなにかを感じていた。
病室の外で私と拓馬の会話を聞いていた桜さんは、ニタニタと悪そうな笑みを浮かべその場を去っていった。
次の日、姉がお見舞いに来てくれた。「お姉ちゃん久しぶりだね。全然お見舞いに来てくれなかったからとっても寂しかったよ」と私は笑いながら姉に言った。
「ご、ごめんね綾。学校のこととかでバタバタでさ、お父さんもお母さんも最近忙しくなって私が代わりにお見舞いに来た感じかな」と苦笑いしながら姉が言う。
「なーんだ。お母さんに会えるの楽しみにしてたのにな」と人恋しそうに私は言う。
その後、姉には同じ病室の子のことや、先日の脱走計画の話をした話しをした。
「え、あんた達あんた達そんなことしてたの!」姉はびっくりしながら言う。
「そのことはお母さん知ってるの?」続けて姉が言った。
「ううん、先生が特別にみんなの両親には黙ってあげるって、まぁもともと病院の警備が緩かったのが原因だしね」と笑いながら私はいう。
「いや、病院のせいにするじゃないよ!」と姉に突っ込まれた。
二時間ほど姉と世間話をしたら「綾、もう時間だから帰るね」
「うん、今日は来てくれてありがとう。とっても楽しかった」私は笑ってそう言った。
姉は病室を出る前に「父さんとお母さん、本当に綾に会いたがっていたよ」
なんで改めて言うのか私には理解できなかった。