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来世でまた会おう。  作者: 日比谷カサゴ
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誕生日


 それから数日経った頃。

 母と二人で病院に検査を受けに行くことになった。

 あの日以降、両親はあまり会話をすることがなかった。私はいつものことだと気にしてはいなかったが、姉はわざと醤油をこぼしたり、父がいつも飲んでいるブランデーを麦茶と間違えて飲んだりして子供ながら家族の会話を増やそうと頑張っていた。

 姉は怒られながらも、両親が二人して怒ってくれるので少し嬉しそうに反省していた。


「綾さーん。斉藤綾さーん。」看護婦さんが私の名前を呼んだ。

「はい」いつものように母はそう言って、診察室へ一緒に向かった。


 今回の先生は二十代後半、黒髪で寝癖が少し目立つ頼りなさそうな先生だった。

 先生と母が真剣な表情で難しい話をしていることは子供の私にも理解できた。

 二人の話が終わり、私はいろんな検査を受けた。注射器で血を抜かれたり、ドーナツ型の機械に入れられたりで一時間位かかった。


 私は昔から病院に行くときはいつも母と二人で行っている。そして帰りにファミレスでチョコレートパフェを食べるのがいつもの恒例になっている。


 病院の先生からは検査結果が分かるまでは数日かかると言われたので、この日も母と一緒にファミレスで私の大好きなチョコレートパフェを食べたあと家に帰った。



 検査を受けた二日後、私が学校から帰ってきたら家がいつもの様子と違っていた。

 部屋の壁には折り紙で作られた花やハートがまばらに貼り付けてあった。


「パンパンパーン」

「誕生日おめでとう」クラッカーを鳴らした後、家族みんなで私に言った。


 両親のことや病院の検査のことで、すっかり自分の誕生日を忘れていた。

「みんなありがとう、私今日誕生日ってこと忘れてたわ」笑顔でみんなに答える。


「綾、みんなで記念写真を撮ろう」父が嬉しそうにビデオを撮りながら言ってくれた。


 テーブルには唐揚げとポテトとウインナー、そして真ん中に母が作ったであろうケーキには八本のろうそくが立てられてあった。

 誕生日の歌とともに部屋中が暗くなる。歌が終わると姉がろうそくの火を消し、また両親に笑って怒られていた。


「綾、誕生日プレゼントだよ」そう言って姉が渡してくれたのは絵本だった。

「私が選んだんだ、一目見たときから綾が好きそうだと思ってこれに決めたんだ」笑ってそう姉が言う。

「雪がどうしてもこの絵本にしたいって聞かないから選んだけど、綾には絵本は幼過ぎないかな、大丈夫?」母は心配そうに聞いてきた。

「うん、とっても嬉しい」私は笑顔で答えた。


 何日か前までケンカをしていたことなど無かったかのように家族が笑っている。そのことが嬉しかったのか、お祝いされて嬉しかったのか分からないが何故か私は泣き出した。


 私の泣いた顔を見て姉が泣いた、そして続けて母も泣いた。これが嬉し泣きなんだなと改めて思った。



 そして二週間後、私が学校から帰ってきたらリビングには座り込んだ母が放心状態でいた。

 私が母に「お母さんどうしたの?」と尋ねる。

「え、、大丈夫よ、ご飯の支度しなくちゃね」動揺しながら野菜を切り出した。


 その日の夕飯はいつもより静かだった。異変に感じた姉がいつものように醤油をこぼすと、母は「何やってんのよ!」と怒鳴り、姉は泣き出してしまった。

 

 父が姉を必死に慰める。父は母の様子がおかしいということに一番に気が付いていた様だった。だからこそ姉に怒る母のことを注意することはなかった。


 私達姉妹が寝室に入ると、両親がいつものように話をしだした。

 その姿を目を赤くした姉と一緒に盗み聞きをしている。


「検査結果なんだけど……」母が重い口を開いた。

「まさか……なにか悪い所でも見つかったのか?」思わず父が言った。

「検査入院が必要みたいなの」

「そんなに悪い症状なのか?」

「先生が言うには今すぐ入院した方が良いんだって」

「今すぐっ!!」父は驚いて言った。

 続けて父が言う。

「なんの病気だ、綾は大丈夫なんだよな。入院したらよくなるんだよな!」

「そんなこと私にだって分からないわよ!」

 部屋の中が凍りつく。そして数分後父が言う。

「綾はそのことを知ってるのか」

 母は無言で首を横に振った。

「そうか……綾にはいつ言う?」

「そうね……」

 

「ごめん、お母さんお父さん、話し聞いちゃった。」そう言って姉と一緒に出てくる。

 姉は泣きながら言った。

「綾と離れ離れになるの?」

「大丈夫、大丈夫よ。」母は私達二人を抱きしめそう言ってくれた。

 そして母は私の目を見て「綾、少し入院すれば元気になるんだって。少し頼りなさそうな先生だったけどああ見えてあの先生腕はいいみたいなの」涙を流しながら笑って母は言った。

「本当に良くなるの?」

「大丈夫、お母さんを信じて」


 その日、私は病名を聞こうとしたけど、怖くなって聞けなかった。


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