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位相  作者: 尚文産商堂
9/51

20°

 朝が来る。目が覚めると明らかに違和感を感じた。生きているはずなのに、明らかに死んでいたという感覚がある。それが先ほど見ていたあの夢のせいなのかは定かではない。

「……おかしいな」

 病院で寝ていた、間違いなく、でも今俺は朝日を家で迎えている。そして今日の日付を確認する。7月4日月曜日。それを見て愕然とした。今までの夢もすべてが7月4日月曜日ばかりだった。何かが違うのは、単に違和感を感じるだけ、ということだけだ。それでも違和感を感じているのは間違いないし、これまでも何度か見た夢とは全く違うのは間違いない。

 ちょうどその時、ピピピと音が鳴る。何かと考えるまでもなく、寝ているベッドの頭元でやかましく鳴り響いている目覚まし時計を止める。やはり、これも何度となく経験した。デジャヴじゃない、本当の経験をした。

「何なんだってんだよ、いったい」

 あの夢は何だ。俺が交通事故に遭って、それで病院送りになるってことか。そういえば今日は夢で見ていた通りに幼馴染の久崎あんずは用事でいないことを聞いていた。考えればあんずがいないことは珍しい。しかもそれが夢のあとだとなれば、やっぱり気になることは気になる。

 どうしようか、と考えているとスマホが光る。何か来たのは間違いないだろう。ベッドわきにあるサイドテーブルからスマホを眺めてみると、メールが一通届いている。あて先はあんずだ。珍しいものもあるものだ。どうせ後で学校で会うというのに。

「今から会える?」

 メールの本文は端的な内容、この一行だけだった。何かわからないが急に会いたくなったということらしい。いいぞ、と返信してから少し気づく。外は雨が降っているはずだが雨音が聞こえない。単純に晴れたのかと思ったが、見たら雨粒はごくごくゆっくりと落ちているのが見えた。

「おいおいおい」

 だんだんとこの世界がおかしくなっていくのがわかる。音がしていた、メールをしていた、間違いなく俺は生きている。でも次の瞬間はわからない。まずは動いているうちにあんずにあうことを優先した方がよさそうだ。


 一応のこととして朝はいつも通りに昨日の残りをカンタンに食べる。とはいってもおにぎりにして昨日のうちに準備していたからそれを食べるだけだ。母親は今日はいないとか言っていたような気がする。

「待ってたよ」

 雨は本当ならばすでにやんでいたのかもしれない。でも今は違う。

「どういうことか、何が起こってるんだ」

「一つだけ、まずは聞いてもいい?」

 制服を着てあんずはそこに立っていた。玄関扉を開けてすぐに道路。一応は4段くらいのコンクリートの階段があることはあるが、それだけで外と内を隔てているとは言いにくいだろう。

「どこまで記憶がある?」

「どういうことだよ」

 玄関扉も閉めることを忘れて、あんずに尋ねる。

「今日は何回続いてる?それとも今日は今日?昨日からちゃんと今日まで寝れた?」

「一つだけじゃなかったのかよ」

 笑いながらも学校に向かって歩こうとする。ただ違う。今日はこっちに行くべきじゃない。

「そう、今日は学校に行っちゃだめ。必ず災厄が訪れる」

「へぇ」

 だんだんとこの状況にイラつきを覚える。

「あんずはいつのまに神様か何かになったんだ。どうしてそういうことを知っているんだ」

「今はうまく言えないんだけど、きっと納得も理解もしてもらえそうもないから。でも。私、知ってるの。今日は私が一緒に行かなきゃならなかったのに、今日に限って行けなかったこと。だからこうしてその歴史を直そうとしてるの」

「いったいどうやって」

 全然話が見えてこない。ただ、一応はなんとなくは理解の片りんだけでも見えるようになった。

「だから今、私はここにいるの」

 こっち、と言って俺をどこかへと案内するつもりらしい。でも、今は行くべきじゃない。

「いや、今は行かない方がいい」

「どうして、もしかしたら、いや絶対に死んじゃうんだよ?」

「かもしれなくても、俺はそっちに行くべきじゃない」

 今は少なくとも行く必要はない。そして俺はまずは学校へ向かおうとしてクルとあんずに背を向ける。きっと残念な表情を浮かべることだろう、あんずのことはよく知っている。でも、今は学校に行くべきだ。

 雨粒はゆっくりとまたその勢いを取り戻して俺の周りを覆う。そういえば傘を持ってきていなかったが、もうずぶぬれになってるとなれば関係がないだろう。バイバイとあんずの声が聞こえた気がした。


 そしてその日、あんずは学校を休んだ。

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