216°
ようやく一般病棟へと移ることとなった。
しばらく体も動かしていなかったからか、あちこちが痛む。
それ用のリハビリも始まったが、同時に一つ気になることもあった。
それが解消したのが病棟を移ってから4日ぐらい経ってからだった。
「今日は面会の人が来ていますよ」
看護師さんが朝食を食べ終わったぐらいに教えてくれる。
「え、もうですか」
面会時間は午後だといわれていたから、今来ていることは信じられなかった。
「ええ、特別な取り計らいだと聞いています」
にこやかに伝えているが、もうその人は来ているらしい。
「かなめくんっ」
もう元気になったあんずの姿がそこにはいた。
「あんず?」
朝食を食べたおかげかしっかりとした思考ができる。
誰かということもわかるし、これがきっと現実なんだということもわかる。
「かなめくんが元気になったって聞いて、会いたい会いたいって言っていたの。そしたら先生が、ああ、私の主治医の先生ね、がそれだけ会いたいなら特別だよって言ってくれてね」
「そうだったのか」
さすがに相手がけが人なだけあってか、いつもみたいにあんずが俺に飛びついてくるということはしてこない。
そんなことはしないわよ、と頭の中で声が聞こえてくるぐらいだ。
「でも、そんなに会いたいっていつも思っていたのか?ここまで積極的じゃなかっただろ」
言いながら看護師さんが近くに椅子を持ってきてくれる。
個室で周りを気にせずに話ができるのがうれしい。
「そう。あの昏睡してかなめくんと一緒になったの、覚えてる?」
忘れるはずがない。
「……不思議な事、いうね」
「ああ」
「頭の中にかなめくんがいるの。比喩とかじゃなくて本当に」
前の俺なら間違いなく笑い飛ばしてあんずを不機嫌にする内容だろう。
でも、今は違う。
「……不思議じゃないさ」
言いながら、天敵がされていない右手で、俺の頭をコンコンとたたく。
「俺も、頭の中に少しだけだけどもあんずがいるんだ。こうしたら喜ぶとか、こうしたら悲しむとか、いろいろと教えてくれているんだ。だから、オアイコだな」
そうだよ、と頭の中で声が響く。
「……だったら、私が言いたいこともわかる?」
ああ、わかる。
「わかるさ」
でも、今は言うべきじゃない。
「……それでも、今は言わないって」
まさに以心伝心だ。
「じゃあ退院のときに、教えて」
答えは知っている。
でも、それが正解だ。
「ああ、きっと言うな」
わかっていても、今はこれが正解だと、互いに知っている。
だからここで面会は終わり。
ナースコールのボタンをおして、そのことを看護師さんに伝えた。




