?° (4)
「まずは自己紹介といこうか。僕の名前はスタディン。イフニ・スタディンという。そうだね、君らの夢の中に住まう者、ぐらいの認識でも構わない」
「夢?でもさっきはあなた、現実だって言ったじゃない」
さっそくあんずがスタディンの言葉にかみつく。
「そうだね、きっとこの子には、岩餅かなめにとっては現実だ。今もなお、五感をそのまま感じ取ることができるだろう。この紅茶の重力を、世界の重力を、自らの体が発するエネルギーを感じ取っていることだろう。この世界は確かにかなめの岩餅の中に感じて、世界が構築されていき、そしてこの世界を自らの心で描くことができるだろう。だから、この子にとってはここが現実だ」
確かにその通りだ。
思った以上にここが夢だという印象はない。
むしろ、転生でもしたかのように、この世界になじんでいると言った方がいい。
「でも久崎あんず、君は違う」
スタディンは一口紅茶を飲み、それからカップをソーサーの上に丁寧に置き直してから、あんずの方へ向いて答える。
「たしか君らは一旦意識を繋いだんだろう。そう、岩餅くんは交通事故に遭った。そして昏睡に陥り、それを救おうとして久崎くんは岩餅くんの意識の中に潜っていった。その結果、君らは魂レベルでのつながりを得ることとなった。すでにつながりは途切れいているのだが、君らはそれを認知することができているかい?」
カップの取っ手の位置を、わずかにずらして、再び手に取りやすい位置へと、スタディンは動かした。
「それって……まるで私がここにいない、お化けみたいな存在だって言いたいわけ?」
「お化けか、確かにそういえばそれに近いだろう」
ハハハッとスタディンは笑って、あんずのことばに返す。
「だが君が単純なお化けとは違うということが一つある。君は意識を持っているだろう。しかし、君自身の肉体は現実にはない。この岩餅くんの体に入り込んでいるせいだ。そして君は二度と元の体には戻れない。これは現実だ。久崎くんにとってこれは夢だということは、自らを制御するためのすべの大半を失ってしまっているという点に尽きる」
だんだん話が見えなくなってきた。
「つまりは、俺にとっては、この世界というのは意識して現実だと思っているわけだけど、あんずにとっては無意識だから夢の中ってことなのか?」
自分でも支離滅裂だと思う。
だが、これが正解のようだ。
満足そうに、そうだ、とスタディンは言った。
「もちろん、僕にとってこの世界は現実の一部だ。君らにとってこれが現実であろうがそれとも夢であろうかは関係ない。だからこうしてここで紅茶を飲むこともできるし、君らをここに呼ぶこともできた。君らにとっては魔法のようなことであっても、現実にする術を知っているからだ」
五感は確かに感じる。
この紅茶の香り、色、それに形もわかる。
でも、決定的に俺が知っている世界と違うのは、さっき見たまるで魔法のように者が生れていったことだ。
だからこれは夢だと思う。
「……ふむ、夢であるということを認識した、というのはいいことだ。君がもしも戻りたいのであれば、それが大事な第一歩となるからな」
再びスタディンは紅茶を飲んだ。




