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位相  作者: 尚文産商堂
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その日は雨の予報なのにも関わらず、結局曇りで落ち着いた。

7月3日の月曜日、今日はたまたま小学校からの友人である久崎あんずが先に学校に行くということで玄関先にいなかった。

いつもは横にいるはずの人が一人いないだけでこんなにも寂しく思える。

そんないつもと違うときには、いつもと違うことが起こるものだ。


――救助に来ました

――こっちです、こっちです

何が起きたかわからない。

というよりか、曇り空がいつもよりも近く感じるのはどうしてだ。

それに、どうして空がこんなにも広く感じる。

――大丈夫ですか、大丈夫ですか

大丈夫だ、と言おうとしても声がもにょもにょと言っている内容が理解できない。

肩をがんがんと叩かれているような、それとも優しく触られているような。

それでも、空が揺れることはない。

――今日は何日かわかりますか、お名前は

名前、名前ってなんだ。

それに今日は今日だろう、何日かなんて関係がないはずだ。

うわうわと声よりも音に近いものを漏らして答えると、彼らは何かを言っていた。

それよりも俺は今日は眠いんだ、少し目をつむらさせてくれ。

――もしもし、もしもしっ

また肩をバンバンと叩かれるが、今度は眠気の方が強い。

目をゆっくりと開けるとようやく声が掛けられた。

――ジェイシーエスで二けた、20か

――ロードアンドゴー、周囲を確認、すぐに病院へ連絡を。交通事故、高エネルギー外傷の可能性が高い

――会話は成立なし、ただし気道は開通、呼吸もゆっくりで深い

――脈は

――脈は強くて速い、心肺機能は異常なし

ゆっくりと目を閉じていくと首に何かを巻きつけられる感覚がある。

さらには両足にもだ。

ほかにもいくつかのところで包帯か何かを巻いているのがわかる。

――ストレッチャー準備、この近くの病院に受入要請を

――この近くなら手野病院があります

――あそこなら必ず受け入れてくれるだろうな、よし第一候補を決定。すぐに連絡を取れ

――了解

ガッシャンと耳元で何かの音が響く。

それはおそらくはストレッチャーなのだろう。

寝そべったままで移動できる便利な奴だ。

――いくぞ、さん、に、いちっ

身体の下に板を滑り込まされる。

そのとき、背中に猛烈な痛みが襲って叫んだ。

――セキチュウに損傷の可能性、ストレッチャーにのせるときには注意せよ

――了解

――手野中央、連絡しました。第一報通知済み、受け入れ可です

手野中央、そういえば近くに手野中央総合病院というとてつもなく巨大な病院があったはずだ。

たしか、1000だが1200だかの病床数があるほどの超巨大な病院だとか。

いろんなことをしているということも、軽く聞いているぐらいなものだ。

行ったことはないけど、噂には聞いている。

――そっち持て、ストレッチャーにのせる

――はい

――さん、にぃ、いちっ

今度は体がふわりと浮かんだ。

魂事浮いてしまいそうな勢いだが、それでもするすると運ばれていく。

そして再び何か金属的な音が聞こえてくると、あとはガラガラと走らされる。

――いいか

――大丈夫です、固定完了

――乗り込むぞ、運転手、すぐに出発を

飛びかけた意識は再び戻り、激痛を体中に走らせる。

それでも往ったり来たりを繰り返しているうちに体は慣れていく。

ふと、周りが少し暗くなった。

――酸素繋げました

――サーチ測定、モニター装着、バイタル確認

――96パーセント、ビーピー上が109で下が56、パルス98、測定開始、常時接続中

何か呪文のようなことが聞こえる。

――出します

――了解、場所は手野中央総合病院、出発せよ。第二報を通知

――了解

それから少ししてから何かをどこかへと伝えているのが聞こえる。

――16歳、男性、高校通学中に車に撥ねられ10メートルほど飛ぶ。セキチュウ損傷のおそれ、左足内出血確認、右足も痛みあり。ジェイシーエス2桁から3桁。高エネルギー外傷の可能性高し

どんどんと個人情報が相手方にもたらされていることは理解できる。

でも、それが何を言っているのかについては理解できない。

それだけ頭から何かが抜け落ちてきているのだろう。

――大丈夫ですか、大丈夫ですかっ

また肩を叩かれるが、こんどはそれを返事する余裕がない。

――ジェイシーエス3桁へ移行、サーチ95パー

何が言いたい、なにがいいたい、なんだ、ともかくねむい、おやすみなさ…………

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