?° (3)
「さてさて、君らが気になること、それに答えてあげよう。ただ、僕がわかる範囲で、ということになるかな」
どうぞ、とソーサーにのせられた温められているティーカップを差し出される。
思わず俺は手に取り、そのぬくもりで現実なんだということに気づかされた。
「……ああ、そうだよ。君は今、現実にいる」
スタディンが笑いながら意味深なことをつぶやいていた。
それからパッと急に顔を明るくすると、そろそろ時間だな、と再びつぶやいた。
「紅茶は時間が命。適切な温度、適切な器具、そして適切な時間。これで最高の逸品が生れる」
単なるお紅茶淹れ方講座を見ているだけになっているが、鍋つかみを右手の人差し指で触れると、とたんに消えた。
空間に溶け去った後には、出来上がったティーポットが一つ。
今か今かと淹れられる時を待っていた。
「さて、と」
そこからは手作業で俺らの前に置かれていたティーカップになみなみと淹れていく。
「最初はストレート。風味を楽しんで。気になったら砂糖を入れてもらっても構わないよ。2杯目からはミルクも入れよう」
カップ8分目で紅茶は止まる。
まるでストッパーでもポットの中に入っているかのように、正確無比の神技だ。
「……あなたは誰なの、どうして私たちはここにいるの、それにここが現実って、どういうこと」
せめてものの反抗と言わんばかりに、あんずは立て続けにスタディンへと質問を投げつける。
だがスタディンは一向に意に介さず、カップの取っ手をつまみ上げるかのようにして紅茶を飲んでいた。
「おお、そうだった」
カップをソーサーの上へと丁寧に置き直してから、ポットの一番高い、蓋の持ち手部分を先ほどと同じようにして右手人差し指で触れると、さっきのような鍋つかみが全体を覆った。
「さて、君の質問に答えよう」
俺らの前に、まるで氷の上でも滑ってくるかのようにすべりこんでくるティーカップを、俺は左手で止めつつ、スタディンの言葉を待った。




