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位相  作者: 尚文産商堂
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 今日もまた雨だった。最近ずっと雨が降っているような気がする。ピピピッと目覚ましが鳴ると、俺は目覚ましのスヌーズ機能が動くよりも先に止めた。カチリと目覚ましをオフにするとベッドから起きる。日付を確認して、7月3日の月曜日。今日がまた始まった。

「ふあぁ………」

 あくびを一つ、ベッドに腰掛け、立ち上がりながらもする。今日はなかなかに目がさえている。少し軽くクックッと膝を曲げたり伸ばしたりして頭をしっかりと働かせた。なんだかいつもしているのにかかわらず、今日は特別な不可思議な感覚があった。


 朝ご飯はパン食、とはいってもあらかじめトーストしてもらっていたものをさっさと食べていくだけだ。それからあっという間に家から出ていく。

「おはよう」

 玄関から3歩ほどの距離には小さな庭がある。その庭の向こう、外界と庭を隔てている肩くらいまである横格子のドアを出る。ドアの前には一人の、同じ高校の制服を着ていた女子が立っていた。

「おう、おはよ」

 幼馴染の久崎あんず。確か生まれた病院が一緒だったかの縁で、生まれてから今までずっと一緒にいる。それぐらいの仲だ。家はすぐ隣。生まれた時からそうだから、もう家同士の壁もあってないようなものだ。

「今日は早かったの?顔がしっかりしてるけど、寝ぐせついてる」

 彼女は言ってきながらも、ちょいちょいと俺の髪を触って整えてこようとしてくる。俺はそんな手を払いのけながらドアを閉じて、それから彼女と高校へ向かって歩いていく。

「うるせー」

 そこで何か漠然とした違和感を再び感じる。なにかここではないどこかとつながっているような感覚だ。どういう風にして言えばいいのか、なってみないとこればかりはわからないだろう。

「……ねぇ、話聞いてる?」

 歩いている最中、ぷぅと頬を膨らませて。まるでリスのように見える。

「ああ、ごめんごめん。なんだっけ」

 すっとぼけているように見えるだろう俺のことはさておき、彼女が何を言っていたのかを確認する必要がありそうだ。

「もうすぐ修学旅行でしょ。その班分け。一緒にするでしょ。あとは誰を呼ぶかって話」

「まあ、いつもつるんでいる連中になるだろうさ。結局のところな」

 だいたい同じ連中だ。俺と彼女、あとは友人の4、5人くらいで一緒になっていることが多い。これぐらいなら1班としてもちょうどいい人数だ。修学旅行でもきっと同じようなことになるだろうと、俺は思った。

「だとは思うけどねぇ」

 何か含みを持たせた言い方だ。でも、そればかりは聞いたところで答えてくれないかもしれない。だから俺はなにもきかなかった。


 通っている学校は手野市立高等学校。結構前に公立の男子校と女子校が合併してできた高校だ。敷地も横並びに会って、1年生は旧女子高、2年生、3年生は旧男子校側で授業を受けることになっている。特別教室は女子校だけ、男子校だけしかないものもあり、授業のたびにあっちこっちに行き来することになっている。

 授業は単調そのもの。だからこそか白昼夢に近いものを見ることが多々ある。とはいっても、ほとんど覚えてはいない。夢だからなのか、それとも単に覚えないように体が拒否をしている内容なのかはわからないが、そうやってぼんやりとした時を過ごすようにしている。


 退屈な授業も終わり放課後ともなると、それぞれ部活や帰路に就く。寄託部も何人かいるものの、それ以外の大多数はどこかの部活に入っているため、それぞれの部室へと向かう。俺は運動部系に入っているが、彼女はというと料理部だそうだ。なんでも井野嶽幌というテレビでもよく見る人の出身部活らしい。

「でも、なんで料理部なのさ」

 俺が昔聞いてみたことがある。すると彼女は。

「簡単よ。料理を作るのが大好きだから。それに、いずれは誰かのために作らないといけなくなるしね」

 それが誰を意味しているか、だいたい想定はつくが、それが違っていたら嫌だから、それについては何も聞かないことにした。だが、料理部で作ったものは、だいたいは俺の胃袋に収まることになる。ともなれば、おのずからその答えも得られるだろう。これも今日も同じことだった。部活が終わるとすぐに部室の近くで待ってくれている。いなければ、俺の方が料理部の部室へと行くことだってある。

「……それで、お前ら付き合っていないって本当か?」

 あるとき、そんなことをしているとつるんでいる連中から話しかけられた。

「まださ」

「いいじゃんか、彼女にしちまえよ。お似合いさ」

「……いつの日にか、な」

 今日もそうだ、結局答えははぐらかす。そうして、この薄い関係性が、ただの幼馴染だというだけの関係性が壊れてしまうことを恐れ、濃くなることにおびえている。


 夜。学校から得ってきてから宿題や晩御飯や、それから風呂に入ってから自室へ戻る。寝る前には必ずラジオを流している。大阪のとあるラジオ局で、春になるととあるキャンペーンをすることで有名だ。それで作られた曲にほれ込んで、確か小学校のころからだったと思うけど、ずっと聞き続けている。聞きながらも勉強を続けている。

 だが、今日はだめだ。勉強に身が入らない。結局考え続けても、今の彼女との関係がこれでいいとは到底思えない。一歩踏み出すことが必要なのはわかっている。それでもその一歩をためらってしまう。

「あーあ。もういいや。寝よ寝よ」

 昔から偉人が言っていることがある。考えがまとまらなければ、さっさと寝ろ。どうやらこれを実行するときが来たようだ。明日の準備を整え、勉強机の上をさっさと片付けてベッドへ向かう。目覚ましはいつもの時間にセットして、するすると布団をかぶった。

 おやすみ、また明日。と、誰かに声をかけられながら、俺はゆっくりとベッドに埋まっていった。

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