121°
ふんわりと雲の上にいるかのような寝起きだ。ただいつも寝ていた部屋ではない。私室じゃない、ここはどこだろう。小さな部屋なのは分かっていたけども、それ以上の情報は起きてみないとわからないだろう。
「……どこだよ」
小さな部屋、それだけは確かに間違いはない。思ったのはふかふかのベッド、羽毛布団をかぶっている。頭上にある埋め込みタイプの天井に張り付いているエアコンが、静かに動いているのが風の動きからわかる。ベッドから右に目を向けると窓が、嵌め殺しになっているのは手で押さえて初めて分かった。
「起きよう、ここはどこだ」
一言でいえばビジネスホテルの、一番か二番目くらいに安い部屋といったところか。ベッドから身を起こしてh締めて部屋の全景が目に入る。鏡台が1つ、その足元には小さな冷蔵庫。向こうに目をやるとハンガーが2本無造作に廊下に転がっていて、3歩でまたげるくらいの短い廊下の先に扉が一つ。扉の手前には部屋の中にドアが備え付けられていて、どうやらトイレがあるようだ。シャワーはない、そういえば風呂もない。
「でてみるか……」
部屋の向こうがどうなっているのか、とても気になっている。外履き用の靴は見当たらなかったので、部屋備え付けの使い捨てスリッパを履いて歩いていく。わずかにひんやりとした空気が、ドアの隙間から漏れてきている。それは俺に今は出てくるべきじゃないと言っているようだ。それを信じてもいいわけだけど、ここにいても何も変わらないだろう。行くしかない。
「ふぅ……」
深呼吸一つして、えいやっとドアノブを思いっきり回す。途端、なにかすっぽ抜けたかのような脱力感が襲ってきて、そのままひっくり返ってしまった。




