120°
ピッピッピと電子音が聞こえてくる。
何の音なのか、俺にはわからない。
――バイタル、安定しました
――よし実験を続けよう。バイタルは常時観察、ビーピー175以上、パルス85以上で即連絡を
――分かりました
医者と看護師の会話を聞きながらも、考えたら、どうしてこれが聞こえているのかが気になる。
今、俺の体はかまぼこの中に閉じ込められているようなもので、直接外からの音はほぼほぼ聞こえないはずだ。
スピーカーはあっても、俺自身の意識は、意識はどうなってんだ?
「ねえ、こっちだよ」
急に話しかけられる。
ビクッとして言葉の方を振り向くと、あんずが立っていた。
ただ立っているだけではない、なにか半透明に見える。
「やっとつながった。これが効果ね」
「なんで、こうやって話が?」
「この装置、意識を疑似的に共有させるものなの。今、私がかなめくんと話せているのも、簡単にいえば頭の中で私がいるから」
「でも、あんずはあんずで、俺は俺で。何も感じないんだが」
「当然よ。疑似的な共有ですもの。私の意識とかなめくんの意識は混ざってはいないの。そうね、先生の受け売りだけど、水と油みたいに混じらないようになっているということらしいわ」
よく昔から見ていたSFやファンタジーだと、意識が混ざって個人が区別できなくなるとか、互いに思っていることがわかるようなテレパシーで共有するとか、そんなことがあるわけだけど、現実はそこまでいかないようだ。
「でも、どうしてあんずはここにきたんだ。どうして俺のところまで来たんだ」
「昏睡に入っていて、一番簡単な出口は意識を呼び戻すことらしいの。でも、ただ呼び戻すだけじゃだめで、ちゃんと体とリンクさせないといけないんだって。それで私が来たの。かなめくんの体と意識を一致させるためのお手伝い」
一瞬、あんずの体が揺れる。
それは分厚いガラス越しに見ている世界のようなものだった。
「だから、これからその世界に行くの」
あんずと体が重なる。
妙な冷たいような、熱いような感覚が全身を貫いていくと同時に、けたたましい警報音が鳴り響き、目の前が真っ暗になった。




