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位相  作者: 尚文産商堂


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24/59

120°

ピッピッピと電子音が聞こえてくる。

何の音なのか、俺にはわからない。

――バイタル、安定しました

――よし実験を続けよう。バイタルは常時観察、ビーピー175以上、パルス85以上で即連絡を

――分かりました

医者と看護師の会話を聞きながらも、考えたら、どうしてこれが聞こえているのかが気になる。

今、俺の体はかまぼこの中に閉じ込められているようなもので、直接外からの音はほぼほぼ聞こえないはずだ。

スピーカーはあっても、俺自身の意識は、意識はどうなってんだ?

「ねえ、こっちだよ」

急に話しかけられる。

ビクッとして言葉の方を振り向くと、あんずが立っていた。

ただ立っているだけではない、なにか半透明に見える。

「やっとつながった。これが効果ね」

「なんで、こうやって話が?」

「この装置、意識を疑似的に共有させるものなの。今、私がかなめくんと話せているのも、簡単にいえば頭の中で私がいるから」

「でも、あんずはあんずで、俺は俺で。何も感じないんだが」

「当然よ。疑似的な共有ですもの。私の意識とかなめくんの意識は混ざってはいないの。そうね、先生の受け売りだけど、水と油みたいに混じらないようになっているということらしいわ」

よく昔から見ていたSFやファンタジーだと、意識が混ざって個人が区別できなくなるとか、互いに思っていることがわかるようなテレパシーで共有するとか、そんなことがあるわけだけど、現実はそこまでいかないようだ。

「でも、どうしてあんずはここにきたんだ。どうして俺のところまで来たんだ」

「昏睡に入っていて、一番簡単な出口は意識を呼び戻すことらしいの。でも、ただ呼び戻すだけじゃだめで、ちゃんと体とリンクさせないといけないんだって。それで私が来たの。かなめくんの体と意識を一致させるためのお手伝い」

一瞬、あんずの体が揺れる。

それは分厚いガラス越しに見ている世界のようなものだった。

「だから、これからその世界に行くの」

あんずと体が重なる。

妙な冷たいような、熱いような感覚が全身を貫いていくと同時に、けたたましい警報音が鳴り響き、目の前が真っ暗になった。

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