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位相  作者: 尚文産商堂


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22/59

111°

 朝、目が覚める。ふわふわとした世界は、ただただ新しい朝が来たということと、目が覚めて世界が生まれたことを知らせてくれる。窓から差し込んでくる太陽の光が、少しばかりの雲に遮られて、まるでさざ波のようだ。ベッドもとにある、サイドテーブルにおいてあるお慶を確認する。アナログの時計だから日付はわからないが時間は午前6時半を示していた。壁にある1か月カレンダーをみると、ようやく今日が7月4日月曜日だということに気づく。今日は高校へ行く日だ。

「ふわぁ~……」

 あくびが自然と出てくる。部屋の中は電気をつけていないのにもかかわらず、はっきりと明るくなっていた。さっきからの太陽光の明かりも原因だろう。最近は不安定になっているインターネットの代わりに、ラジオ放送が復権してきている。俺も例に漏れず、朝市のラジオをつけて、何かあったかを確認した。こういうとき、手野ラジオはニュースのようなバラエティーのような、そんな番組をしてくれているおかげで、話には事欠かない。わずかな雑音とともに、はっきりと声が聞こえてきた。

「……大日本連合は、本日、大陸方の紛争の仲裁に関して、手野武装警備に平定することを命じました。手野武装警備社長は連合首班より命令書を受領し、国連軍として派遣している部隊の一部を差し向けることを確約しました。手野武装警備社長は、また、国軍と協力し、紛争の仲裁に全力をあたることを連合首班に誓いました……」

 と、ここまで聞いて朝の準備をしているところに、コンコンコンとドアをノックする音がする。

「どーぞー」

 寝巻きのままで、俺はそのノックをしてきた主へと声をかける。ドアノブをまわして入って来たのは同級生の少女だ。

「まだ着替えてなかったんだ」

「まだ6時半だぞ、時間が余っているだろ」

 彼女はまだ高校の制服を着替えてはいなかった。ただ、あとはブレザーを着ればいいぐらいまではいっていた。胸元にある赤色の大きなリボンは、まだボタンを付けられていないようで、首元で紐だけが揺れていた。

「まだまだ時間はあるって言っても、あっという間に時間は経っていくんだからね」

「そりゃそうだろうけどさ」

 言いながらも彼女を見る。スカートは履いていた。あとは特に変わったものはない。だけど、何か違和感がある。彼女のことを思い出してみると、この前から家に泊まっている、幼馴染だ。戦争は全世界に広がっていて、彼女の家もこの前の敵国からのミサイルで木っ端になった。ただあらかじめ避難地をAIが教えてくれていたおかげで、死傷者は一人も出ていない。

「ま、私がここに住むのも家が直るまでだしね。だから、ほら」

 そういって俺の腕を引っ張って部屋から出て行こうとする。

「行こうって、新しい世界」

 それが何かはわからないけど、いいかもしれない。でも、今じゃない。思ったとたん、床に置いてあった教科書に蹴躓くと、急に世界が暗転した。

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