99°
何か長い夢を見ているような気がする。それがどんな夢だったのかと言われたら、答えることができない。一瞬のうちに記憶から流れ出てしまい、そのまま忘れてしまったようだ。忘却の彼方へと進んでしまったものについて、思い出そうとするのは時間の無駄だろう。そう思って起き上がろうとして時計を確認する。ベッドわきに置いておいたが、それもいつの間にかアラームが止まっている。
「おはよ」
眠い目をこすると、ベッドの上で起き上がる。と同時に声をかけられた。だれか、女の子の声。時計の日付は7月4日月曜日。午前7時過ぎ、学校に行くにしては早すぎるが、ゆっくりと起きていれば、まあ何とかなるだろう。
「おはよう」
彼女は俺のベッドわきに立っていた。名前はあんず。今じゃすっかりと同居しているが、彼女はもともとは別の家にいた幼馴染だ。ただ、今はその家が壊れてしまっていて俺の家で居候をしている。父親の部屋が空いていたから、そこをあてがっている。おかげで家の中で自由気ままに動き回っている。
「って、まだ7時過ぎだろ。早すぎないか?」
彼女の様子を、ようやくはっきりとした頭に焼き付けていく。簡単なピンク色をしたパジャマを着ているが、少しくたびれているようだ。それでもまだまだ使えるということで着ているらしい。
「でも起きちゃっんだから」
ほら起きてと、彼女が俺の腕をグイッと引き上げて、無理やり起こす。
「戦争の影響で、先生も出征しちゃっているけど、高校は空いているらしいから。そこで自習はできるって」
そういえば、そんなことを先週の金曜日に言っていたような気がする。先生は文官として確か占領地域での教育をしに行くという話だったはずだ。どこまで正しいのか、そもそもどこが占領しているのかなんていうことは、ラジオで多少は聞いている。ただ、比較して遠くのどこかという印象しかなかった。
「はいはい、じゃあ起きるとするかね」
何はともあれ、起こされてしまったうえに目も冴えてきてしまった。こうなれば二度寝は難しい。俺はしぶしぶではあるが、結局彼女といっしょに起きる羽目になった。




