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位相  作者: 尚文産商堂


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20/59

90°

装置にはあらかじめ水のような液体が、俺の体のちょうど半分が浸かるくらいまで入れられていた。

不思議と気持ち悪さはない。

服ごと入っているから、まるで着衣水泳のような雰囲気になっているだろうが、それが気にならないようになっているようだ。

温度も感覚がなくなる、いわゆる人肌というものなのだろう。

――バイタル安定してます。実験、いつでもいけます

――相手は

――もうすぐです

と、そこで看護師らの言葉が一瞬途切れる。

ちょうど部屋へと誰かが入ってくるのが聞こえたからだ。

――おまたせしました

――ああちょうどいいタイミングですよ。こちらへ

てきぱきと何かを動かしていく音が聞こえる。

――すでに説明を受けていますよね

――はい

――では、危険性についてもご理解しておられますでしょうか

――はい

――その危険性を理解したうえで、今回の治験に協力をしていただけるということで、よろしいでしょうか

――はい

はい、と短く、確実な意思をもって返事をしているのは、予想通りに久崎あんず、その本人だ。

何か知らないが、今からたくさんのコードにつながれていき、何かをされるということらしい。

頭にもたくさんの何かを付けられていき、同じような装置の中へと体を沈めていく。

――今から蓋が閉まります。蓋が閉まりますと5秒ほどしてからガスが出ます。人体には影響はありませんが、落ち着いた雰囲気にあることでしょう

最後の手順の確認のようだ。

久崎に対して、看護師が話しかけているらしい。

――この装置の中には内臓スピーカーがあり、私たちの声は全て聞こえるはずです。一方で、マイクもあり、貴女が発する声も全て聞こえ、また録音されます。ガスは鎮静効果があり、恐怖を和らげてくれます。一方で、さらに10秒ほどすると、今度は麻酔ガスが充満します。これにより、2人の意識をわざと混濁させ、装置で共通の夢を見ていただきます

――分かりました

もう久崎の姿は全部が装置の中へと入ったようだ。

ただ看護師との会話だけが静かに聞こえている。

――あなたの目的を、もう一度教えていただけますか

――私は、あの子を、岩餅かなめを助けにいきます

――では良い夢が見れることを切に願っています

プシュンと音が聞こえて、みるみる間に装置のドアが閉まった。

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