一、砂鳥冷夏は怪異である。
一、砂鳥冷夏は怪異である。
砂鳥冷夏は都市伝説の怪異である。
噂では夕暮れ時に突然現れ、
「私、キレイ?」
と聞いてくる女性形の怪異だとされる。
一般に「口裂け女」と呼ばれる。
長い黒髪。
猫のような瞳。
耳まで裂けたかのような大きな口。
口の中にはギザギザの牙が生えている。
カラシ色のコートを着ている。
冷夏は神社の境内に佇んでいた。
砂鳥神社である。
冷夏は、普段は人々には見えない霊のような状態になっている。
食事の必要がなく、風呂にも入る必要もない。
時折、訪れる参拝客を眺めて過ごしている。
参拝時に願い事をすると、その頭の上に願い事が映像として浮かび上がる。
その映像を見て、感想を言ったりする。
だいたい砂鳥の神様が一緒に眺めていて、感想を言い合ったり、議論したり、している。
ごく希に砂鳥の神様に言われて、怪異たちと人間たちとの間を取り持ったりする。
それが冷夏の唯一の仕事であった。
(……ヒマだな)
だが、冷夏はいつ頃からか、そう思うようになっていた。
昔はそんな事は思いも付かなかったのだが。
「砂鳥の神様」
冷夏は言った。
「なんじゃ?」
神様は聞き返した。
神様は老人の姿をしている。
白い着物、白い髭、白い髪。杖をついている。
「なんか面白い事はないか?」
冷夏はため息をついた。
「ふむ、ちょっと待て」
神様は懐から何やら取り出して、
「あー、ワシじゃ、ワシ。何か面白い事ないかの?」
「おお、そうかそうか。それ、面白そうじゃの」
「うむ、ウチの冷夏がな、おー、そうそう。そうじゃな、うむ」
スマホに向かって何やらしゃべくった。
「いい話があるようじゃぞ」
神様はスマホをしまって、
「なんか怪しいな」
冷夏は渋い顔。
神様がこういう顔をする時は大体ロクでもない、と経験上知っている。
「大丈夫じゃ、ちっとばかし遠くに行ってもらうだけじゃ」
神様は言った。
「遠くってどこだい?」
冷夏は聞いたが、
「ふふふ、行ってのお楽しみじゃ」
神様は笑った。