表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

なろうラジオ大賞参加作品

私はひまわりになりたい

作者: 田尾風香

『水の精クリュティエは太陽の神であるアポロンに恋をしました。しかしアポロンには意中の女神がいて、クリュティエにとっては叶わぬ片思いでした。


 クリュティエは嘆き悲しみ、涙を流し、昼も夜も空を見上げ、アポロンが黄金の馬車で東から西へ空をかけるのを毎日じっと見つめていました。


 恋が実らず、九日間立ちつくしたクリュティエの足は地面に根付き、ひまわりの花へと姿を変えてしまったのです』



 もう何度目になるか分からないくらいにその神話を読んだ花奈はなは、またも涙を流す。


「クリュティエ、悲しすぎるよ……」

「いい加減にしたら、あんたは」


 友人に呆れられたけど、これだけはどうしても譲れない。


「すごく気持ち分かるんだもの! 私だって、なれるならひまわりになりたい」

「はいはい」

「んもー!」


 真面目に取り合ってくれない友人に怒るけど、これもいつものことだ。


 花奈は図書室の窓から校庭を覗く。そこから見えるのは、サッカー部の練習だ。すぐ目当ての人を見つけて、心臓がキュッとなる。


あおい……」


 届かないと分かっていて、名前を呼ぶ。

 近所の幼なじみ。小さいときはただの悪ガキだったのに、中学になってサッカー部に入ったら途端に頭角を現して、いまやイケメンのサッカー部エースだ。当然、モテる。


 今ではほとんど話をすることさえなくなってしまった幼なじみのことなど、覚えていないだろうなと思う。


「私もひまわりになれたら、葵のことずっと見ていられるのかな」

「はぁ……」


 友人がため息ついたのが聞こえたけど、しょうがない。振り向いてもらえないなら、せめてずっと見ていたいと思ったって、いいじゃないか。


「あ、休憩時間かな」


 バラバラと人が散っていく。まだ終わる時間には早いから、たぶんそうだろう。

 花奈は視線を逸らせた。休憩時間は見たくない。たくさんの女の子が群がっている姿なんて、誰が見たいものか。


 クリュティエはすごいと思う。他の女性と幸せになる好きな男性を、それでも見続けたのだから。


「おい花奈!」


 突然、誰よりも聞きたい声が自分の名前を呼んだ。驚いて窓の外を見ると、そこにいたのは大好きな男の子。


「もうすぐ練習終わるから、待ってろよ! 一緒に帰るからな!」

「え?」

「だから今日はお前の誕生日だろうがっ! じゃあな! 勝手に帰るなよ!」

「……え?」


 言うだけ言って去っていく葵の顔は、何だか赤かった。

 ――もしかして、私はひまわりにならなくてもいいですか?



ひまわりの花言葉 「あなただけを見つめています」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ