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星の瞳のお王子様

作者: まいら





明け方に雨の音で目が覚めた

時計を見たら五時。少なくともあと二時間は寝てられる。


そっと目を閉じた。




ザァァア――――――――――――――――




ベットに入って布団にくるまり打ちつける雨の音を聞くのが好きだ

自分の世界にどんどんと引き込まれていく





pipipipipipi




「ん~」



目覚ましの音で目が覚めた。

明け方に聞こえていた雨音はなく、チュンチュンと小鳥の囀りが聞こえる

カーテンを開けると雨が降っていたのが嘘だったかのような青空が広がっていた



まっすぐ毛伸びをしてから顔を洗い、メイクやヘアセットしてリビングに向かう



「おはよー!めっちゃ晴れてるね!!」



「おそよー。朝大雨だったもんね。てゆか雨美(うみ)。また、メイクに時間かかって、遅刻するわよ??早くご飯食べちゃいなさい。」



お母さんはため息交じりで私の前にこんがりときつね色に焼けたトーストとコーンスープを出した



「いただきます~!」



おいしい~!最近始めたダイエット。夜はサラダだけを徹底してるため、朝と昼のご飯の時間が至福のひと時なのだ。

あっという間に胃袋に入れて時計を見るとそろそろまずい時間。



「やっば!歯磨きしたらすぐでないと~!!」



「だからいったでしょ~?もうあんたって子は・・・」



「ふぁふぁっふぇふー(わかってるー!)」



「歯磨きしながらしゃべらない」



「ふぁーひぃ(はーい!)」



歯磨きが終わり鞄を持って家をでる



「いってきまーす!」



「気を付けるのよ!」



晴れてて心地よいくらいの暖かい朝だ

ただこんなゆっくりしすぎてはいけない

8時10分

なんとしてもこの電車に乗らなくてはならないのだ



トゥルルルルルン



《電車が、まいります。黄色い線から離れてお待ちください》



アナウンスが入っているときにホームにつく



間に合った!!


ふぅーと息を整え

手鏡で最終チェックをする

メイクよし!髪の毛よし!制服の乱れなし!


サッと手鏡をしまい高鳴る胸を押さえる


8時10分 2番線ホーム  6番ドア



プシュー とドアの開く音



顔を上げるといつもどおり彼がいた




星の瞳の王子様。




スラっと高い背に白い肌

黒いサラサラの髪に切れ長の瞳


その瞳は夜みたいに黒く、星のようにキラキラしている


一瞬目を合わせそして逸らす



それが私たちの朝の日課


彼は右のドア横に。 私は左のドア横に。


いつのまにかそれが私たちの定位置になっていた




彼と最初に会ったのは高2の春

いつも早い電車で登校していた私だが、ある日寝坊をしてしまいいつもより遅く駅に着いた


そして8時10分に電車が到着して、乗っていたのが彼だった

一目見た瞬間から引き込まれた

かっこいい。というよりも、綺麗な人。の印象の方が強かったかもしれない。


走って乱れた制服と髪を全力で後悔したこと覚えている




彼が何年生なのかもわからない

ただわかることは、8時10分。6番ドア、彼がいること。そして私より三個前の駅で下車すること。


話したこともなければ声すら聞いたこともない。



けど、この彼が下車するまでの15分間。

私にとって甘酸っぱい時間である




《~駅~駅》というアナウンスが流れ彼は下りて行った


緊張の糸が切れ、ふーっと胸を撫でおろす。

素敵な時間でもあるがドキドキしすぎて胸がパンクしてしまいそうだ。


自分の高校がある駅に着き、改札を出ると柱にもたれかかりながら携帯をいじる友達

葉山(はやま) くるみ の姿がみえる


おっと、紹介が遅れてしまった。

私の名前は 宮野 雨美(みやの うみ)

現役バリバリの高校二年生である



「くっるみ~!おはよ~」



「雨美~おは。もうちょい早く来れないの~?」



「絶っ対無理!」



「噂の王子様にお熱だもんね~。そんなに雨美がべた褒めする王子に会ってみたいよ」



そう笑うくるみ

もうこの会話がある意味私たちのルーティーン化していっていた





そうしてそんな日々が続き、あっという間に三年生の卒業式の前日に突入していた

未だに王子様とは会話もしたことはない



卒業式の予行練習が終わり、私とくるみは下校していた




「先輩たちも明日、卒業かぁ。くるみの彼、進路決まったって?」




「ふつーに大学に進学するみたい。本当は働きたいらしいけど親がどうしても行ってほしいんだって」



「あー。頭いいもんねぇ。」



「私達も、もう高3になるとかあっという間すぎだよね」



「ね。高校生活ずっと続け―とか思うけど、もう受験勉強の時期にはいるからリアルに感じるよね。」



駅のホームにつくと、丁度電車がきた

靡くスカートを押さえながら電車に乗った


車内はガラガラで、ぽつんぽつんと数名しか座っていなかった

電車に揺られ、窓のフレームによって夕日の光がところどころ遮られちかちかする

ぼー、としてしまう。横を見るとくるみもうとうとするのがわかる。



陰によって揺れ動く電車の床を見ていると、いつも彼が下りている駅に着いた。



《~駅~駅》とアナウンスと被りゲラゲラ笑う3人組の男子生徒の声がする



ふとそちらを見ると私の目は大きく開かれた

そして目が合った相手の瞳も大きく開かれていた



「く、くるみ」



「ん~?」



「いた、いた、王子様いた」



と小声伝えるとくるみは、バッと3人をみてあたふたとする



「どれ!?3人のうちどれ!」



「真ん中・・・」


夕焼けに染まっていつもより違う雰囲気な王子様

ずっと聞いてみたいと思っていた声は想像より低く、やんちゃそうな声だった




なんだこの異様な光景は


私はこそこそくるみに話して


彼はこそこそ友達に話している



ただ、こんなに目が合っていたことは過去にない


結局何かできることもなく自分の駅について下車した。

電車を降りた時、ガラス越しに彼を見た。

するとその星の瞳と目が合う

少しだけお互い微笑み、小さく会釈をし合う



そのまま電車は行ってしまった



きっといいきっかけになった。明日も会釈してみよう。

もしかしたら話せるかもしれない。


そう胸を躍らせて家路についた。





しかし、




彼と会ったのは、それで最後だった。



多分高校3年生だったんだろう

朝の電車も彼のいつもの定位置には知らない人がいた。


なんにも思い出なんかない。




一瞬目が合って、たったの15分間、扉の端の場所にお互い立っていただけ

なのにすごく寂しく感じて、涙が出そうになった





あれは泡沫のような恋。




すごくきれいで、なんもない海に溢れた泡





その泡は切なく消えていった





せめて名前だけでも。知りたかった。





*****************************************




お客さんで賑わう美容室




「宮野ちゃん!カラー一緒に塗って!」





「はい!いまいきます!ベタでokですか?」




「うん!大丈夫!ありがと」




私は23になり、美容師になっていた

高校3年のとき、美容に行きたい。そのために専門学校に行くことに決めたのだ。

専門学校でもたくさん勉強をして晴れて国家試験に合格することができた



ちなみにくるみは動物カフェ経営している

今度癒されにでも行くかー




「じゃあ今日も1日お疲れさまでした!」



「あっっしたー!」



終礼が終わり少し練習した後店をあとにした



「あーさむ」



練習が終わるといつも22時は回っている

秋から冬に代わるこの空気が好きだ。寒いけど。


なんとなく空を見上げる




「星の瞳の王子様。」



今は少しだけもやがかかった思い出

ただあの目が合った瞬間のどきどき、あのひと時の時間の儚さ、その感情は今でも思い出せる



トゥルン



携帯がなり通知を見るとくるみの名前が



(やっほー!元気~?近々あそば~(^^))



開いてみると昔と変わらずマイペースな雰囲気に笑いがこみあげる


そういえば星の瞳の王子様に帰り道会った日


私が下車したあと、彼ら3人が話してる会話の内容が聞こえてきたらしい



『あれが噂の?!』



『そう、毎朝同じ電車で会うんだよ。目が合って、どちらからともなく目を逸らすんだけど、ずっと思ってた。すごく可愛い子だなって。』



『確かに可愛かったけど、惚気かよ!(笑)』



『かもな(笑)』




そういっていたらしい。

きっとどこかのタイミングで話しかければなにか変わったのかもしれない


でもお互いそうしなかった。できなかっただけかもしれないが。



まーあれだな、




「本当に青春してたなぁあ~」





もう戻らないあの一年間の淡い恋心




通学路   電車の音   揺れるスカート   星の瞳の眼差し




すべて大切な思い出だ




「よ~し、明日も頑張るぞ~!」





もう戻らない思い出によって、今がある


この気持ちを大切に胸の奥にしまっておこう



そしてたまにその箱を開けて、あの頃の気持ちを思い出そう





私はそう思いながら満点の星空の下、大切な人が待っている、家に帰った





FIN





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