キスがしたいだけの話
男の子と女の子、女の子と女の子があります。
「わかちゃ~ん! こっち、こっち!」
「まって~」
わかなはだいすきなのぶくんのあとをついていく。
「ほら~、こっちならひといないよ!」
わかなたちはだれもいなそうなところにこっそりといく。
「のぶくんはやいよ~。まって~!」
「ほら、みえなさそうでしょ?」
「うん!」
「じゃあ、こっちむいて?」
「うん!!」
のぶくんのいったとおり、のぶくんのほうをむく。のぶくんはくちびるをつきだした。
「はい、ちゅー。」
「ちゅー。」
わかなは、すこしずつかおをちかづけていった。すこしのあいだなにもおこらなかった。でも、じかんがたつとのぶくんのくちびるがあたった。ふれたしゅんかんにびくっとしてしまい、
はなしてしまった。
「いっしゅんになっちゃったね。もういっかいちゅーしてみる?」
「うん! してみたい!」
もういちどめをつぶる。こんどはのぶくんとのあいだをみじかくて、ちゅーをする。のぶくんのくちびるのかんじがしっかりとつたわる。さっきよりはながくちゅーすることができた。
「なんか、すごくよかったね。」
のぶくんにおもったことをいう。
「すごいね、ちゅーって。」
しらないことをはじめてしった。これをパパとママはしていたのかな。とてもふしぎだとおもった。
「のぶゆきー! わかなー! どこいるのー!!」
「あっ、ママの声がする!」
わかなのママがわかなとのぶくんのことをさがしていた。
「ぎゃくがわからまわってでてこ。」
「うん。」
のぶくんのあんにのって、わかなたちははんたいがわからでていった。のぶくんはわたしのてをひっぱってくれた。
「あのさ、またちゅーしていい?」
のぶくんがちいさなこえでいう。
「うん、いいよ。」
わかなもなんだかはずかしくなって、ちいさなこえでいった。
そつえんするまでこのかんけいはつづいた。
私、宮川和佳奈は高校生である。モブキャラみたいな見た目をしている普通の女子高生。キラキラした日も、ちょっと変わった日も訪れない。平凡な日々が送れて、私は大満足である。しかし、そんな私にも、平凡ではないところがある。それは、キスというものへの好奇心だ。キス…… 自分の唇と相手の唇を重ねるという行為…… なんて儚い行為だろうか…… 私が初めてキスしたのは幼稚園児のとき。当時大好きだった男の子と唇を重ねた。あの時に感じた思いが今でも忘れられない。唇の柔らかさ。離したときの寂しさ。唇を重ねているときの安心感。どれも、キスをしている瞬間しか感じることができない、特別な感覚だと思う。あれから、ほかの人ともキスをしたくてたまらない。好きだとか恋とか愛とか…… そういうのは、どうだっていい。何なら、海外みたいに挨拶のようにキスができたら最高だと思う。でも、日本じゃそんなことはできない。だから私は、私に好意を見せる男に私も好意があるように見せ、唇を重ねた。どんな男もあの時感じた感覚と似た感覚が得られる。私にはそれがたまらなく好きだ。こうやって私はキスという沼にはまっていった。
「わかなちゃん。こっちも掃除終わったよ。帰ろ。」
「うん。」
私の友人、ゆかりちゃんがいつもどおり私を誘う。私たちはいつも教室で待ち合わせて、一緒に帰っている。あまり干渉しない私たちは、ほとんど何も会話せずにいる。なんで一緒にいるのか聞かれたら、一人は寂しいから程度の理由だ。ゆかりちゃんはどう思っているかわからないが。そんな関係だが、急にゆかりちゃんから話題を振られた。
「ねぇ、わかなちゃん。今日暇?」
「えっ、うん。特に用事はないよ。」
私は素直に答える
「あのさ、私の家こない?」
「えっ。」
あまりにも急な誘いに驚く。
「あぁ、急にごめんね。あの、今日親いないんだ。一人だと寂しいから、夕飯ぐらい食べていかないって意味で…… ごめん。」
ゆかりは慌てた様子で、早口で喋る。
「ごめん、ゆかりちゃんに誘われたことなかったから驚いただけなの。」
「でも、本当に急にごめんね?」
「いやいや。でも私、今日暇だから。ゆかりちゃん家行っていい?」
「来てくれるの? ありがとう!」
いきなりの誘いだが私はついていくことにした。ゆかりちゃんの家は、学校からとても近かった。近いとは聞いていたが、まさかこんなにも近いとは思わないほど近かった。
「お邪魔します。」
「誰もいないから大丈夫だよ。ちなみに、夕飯何食べたい?」
「えっ…… うーん。」
いきなり聞かれると悩む。特に食べたいものとか考えずに生活しているからか、パっと思い浮かばない。
「ゆかりちゃんの得意料理がいいかな。特に食べたいものが思い浮かばなくて……」
「気にしなくていいよ。夕飯食べるぐらいの時間になったら作るね。」
そう言って私たちはソファーにもたれかかった。私たちは、雑談をした。好きなもの、趣味…… 私たちは長いこと一緒にいたが、本当にお互いのことを全く知らない。合うものも、合わないものもたくさんあったが、今までやってこれただけあって、これからも仲良くできそうだ。私たちは、たくさん話、たくさん笑った。だが、急にゆかりちゃんは神妙な面持ちになった。
「あのさ、わかなちゃんって好きな人いる?」
「好きな人いないなー。」
「そっかー。」
ゆかりちゃんは悲しそうな声で言う。
「いたことはあるの?」
「うん、まぁ……」
幼稚園のときの話だし、しょせん幼稚園児の恋なので数に入れていいのかわからず、曖昧な返事をする。
「そんな返事じゃわかんないよー。じゃあ、人と付き合ったことは?」
「あるよ。」
「好きじゃない人と付き合ったの? その前の曖昧な返事からして。」
「うん、まぁね。好きじゃない人としか付き合ったことないよ。」
「そうなんだ…… なんで……?」
余計なこと言ったなと、ゆかりちゃんからの質問で思った。しかし、言ってしまったものは仕方がない。話しておこうと思った。
「あのね、これあんまり他の人に話してほしくない話なんだけど、私、キスというものが好きなの。」
「うん。」
小さなことで、ゆかりちゃんが返事する。
「キスしたときの感触、している時の安心感。そういうのを感じられて、とてもクセになるの。だから、キスしたいがためにいろいろな人と付き合ったことがあるの。好きでもないのに。」
「そうなんだ。キスってそんなにいいものなの?」
ゆかりちゃんに疑問を投げかけられる。
「うん、とっても良い。」
そう答えるとゆかりちゃんは急に迫ってきた。私は突然すぎて離れるまで、何が起こったかわからなかった。ゆかりちゃんにキスをされたのだ。ゆかりちゃんは顔を赤らめて私のほうを見ている。
「私とのキスはどう…だった…?」
私は戸惑いながら答える。
「急すぎてわからなかったから、もう一回させて?」
私はゆかりちゃんの顔を手で支え、近づいた。ゆかりちゃんは目を閉じて、少し怯えている。そんな表情を可愛いなと思いつつ、キスをした。ゆかりちゃんの唇はとても柔らかかった。今までで一番柔らかい。もしかしたら女の子はみんな柔らかいのかもしれない。とても、気持ちいいものだった。
「それで…、どうだったの?」
ゆかりちゃんは恥ずかしそうに言う。
「すごい良かった。女の子とするの初めてだけど、柔らかくて、安心感がした。」
「良かった……」
ゆかりちゃんはほっとしているようだった。
「それより、なんで急に私にキスしたの?」
ゆかりちゃんに事の成り行きを聞いてみる。
「実はね、わかなちゃんのこと好きなの。だから、私もキスしてみたいなって思って……」
ゆかりちゃんの顔はまた赤くなった。
「そう… だったの…」
「うん。順番逆になってごめんね?」
「いやいや、大丈夫だよ。ゆかりちゃんとキスすることができたし。」
女の子とキスをするという貴重な体験ができたわけだし。
「私と付き合ってくれる?」
「うん。」
そう言って私たちは、もう一度キスをした。男の人とするのも、女の人とするのも気持ちがいいという事を知ってしまった。これはまた深みにはまりそうだ。それに、どうやら私はキス依存症みたいだ。