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08 夜更けの暖炉

ワインをごくりと呑むと、

グラスを掲げて子供たちを思った。


子どもたちは…頑張れ!



とりあえず大学には行かせた。

就職もした。

完璧ではないが、それなりの家事レベルはしつけた。


あとは自分次第だ。


伴侶を見つけるでも良いし、出会わなきゃ出会わないでいい。

仕事に生きるも趣味に生きるも好きにすればいい。

自分の口を賄えるだけの事をすれば、誰がなんと言おうがあとは好きにすればいい。


私の時代は25までに嫁に行かなきゃ、売れ残りのクリスマスケーキと言われ30過ぎに初めて子供を産んだら母子手帳に高齢出産の判子が押された。


うちの薫は既にアラサーだ。

仕事が楽しいらしく、未だに家から出ていかない。私は憧れの一人暮らしだったんだけどな。一人暮らし。貧乏だったけど楽しかった。


あ、今35年ぶりくらいに一人暮らし?だ。


裕人ひろとは、年の割にはのんびりしているが今の職場に恵まれてなんとかやっているようだ。


頑張れ頑張れ。

お母さんもここで頑張るよー。



チェリーを摘むと甘さが口の中に広がる。

種は抜かれていて食べやすい。

ワインと合わせると今まで感じなかった微かな渋みが感じられる。


いちごを摘むと、日本のいちごと違い少し固く酸味が強くて甘酸っぱい。

ワインと合わせると、口の中でワインの味が変わる。

1段甘みが強くなる。



美味しいワインよね。


陽子さんはベアトリーチェがこのワインが好きだったのがなんとなくわかる気がした。



暖炉は暗い部屋の中を穏やかに暖める。

静かに、時折パチパチと音を立てゆらゆらと焔が揺れる。

いくら眺めていても飽きない、優しい赤とオレンジの焔だった。


どのくらいの時が過ぎたのか。

ワインボトルの半分ほど呑んでからベッドに入った。



陽子さんは、自分でどうにもならない事はどう解釈したっていいでしょう?と思うタイプだ。


不条理なことや憤慨する事もすくなくなかったけど、そうやって折り合いをつけてきた。


どうして、ここでアデライーデとして転生したかわからない。

わからないけど、どうにもならないならせいぜい楽しむまでである。幸いなのが子どもたちは自分で生きていける年だったことだ。



ベアトリーチェのようにまだ少女の子を一人残していかなかっただけ幸せなのかもしれない。



心残りは雅人さんの事だ。

定年退職したら、のんびり過ごすつもりだった。

どこに行こうここに行こうなんて予定はなかったが、二人で穏やかに過ごすつもりだった。



ごめんね。一緒に年をとれなくて。

ごめんね。突然で。

ごめんね。看取ってあげられなくて。




陽子さんは、雅人さんを思って広いベッドでひとり眠りについた。

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