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【2巻も準備中!】転生皇女はセカンドライフを画策する  作者:


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70 お土産と笑顔


広場は様々な匂いが溢れていた。

串焼きの肉は香ばしく呼び込みの声の威勢がいい。カットしたフルーツを串に刺している店もあれば、角打ちのように酒を1杯ずつ売る店もある。



さすがに、食事を済ませてきたので買食いはできない。いつも旅行では地元の朝市に行って、干物や野菜を買っていたがそれは無理よねとキョロキョロと見回すと所々に手芸品や民芸品のようなおもちゃを売る店もあった。



「アルヘルム様、フィリップ様にお土産を買いたいです」

「フィリップに?貴女は何か欲しいものは無いのか?」

「お腹はいっぱいですし…買って帰ると約束したので先にお土産を買いたいです!マリアやメイドさん達にも何か買いたいわ」


久しぶりに買い物をする嬉しさに、1人はしゃいでいるとアルヘルムは貴女の好きな物を買いなさいと許してくれた。



広場の端のおもちゃを売る屋台で、馬の人形を見つけた。

頭が前後に揺れて、ちょっと前世の赤べこの馬バージョンと言った感じだ。



フィリップは馬が好きだし、いいかもと手に取ると「お嬢様、良いものを見つけたねぇ!それはうちの1番人気の馬なんだよぉ」と店主らしき恰幅の良いおば様が大声で声をかけてきた。


日に焼けた茶色の髪を後ろで括った店主は、年の頃は45くらいであろうか。



「お嬢様は馬が好きなのかい?」

「ええ、でもこれは馬好きの男の子にお土産にしようと思って…」

「男の子はみぃ〜んな馬好きだからねぇ。絶対外さないよ。いいよ!これ絶対喜ぶさぁねぇ」とぐいぐい推してくる。


「お土産なんだろ?」

「ええ」

「じゃ、これで決まりだ。女の子にお土産は買わないのかい?」


「あ…えっと…。買います…」

「そうかいそうかい… こっち来てごらん。いくつなんだい?」

「4つ…」

「ちっちゃいねぇ。妹かい?」


「あ、いえ!4人分…」

「4人! お嬢様のとこはお貴族様にしちゃあ子だくさんだねぇ」

「いえ!侍女とメイドさん達にお土産を買って帰ろうかなって…」


貴族と言うのはバレているらしい…



「メイドに?!」

店主は驚いたように箱を出しかけていた手を止めて振り向くとまじまじとアデライーデを見た。



「ええ… 日頃とてもお世話になっているので…」

「お嬢様、あんた良い子だねぇ…」

しみじみとそう言うと、店主は出しかけていた箱をしまって屋台の下から別の箱を取りだした。


「若いメイドなのかい? 何人だい」

「えっと…多分私よりちょっと上くらいで3人」


「じゃ、リボンだね。身につけられて見せられるからねぇ。メイドにはリボンが1番だ」


店主はちゃっちゃと決めていく。異論は認められないようだ。


「1番人気はクリーム色と臙脂(えんじ)深緑(ふかみどり)だね」

なぜに1番人気なのに三色なのか…


「揃いにするかい?その方が喧嘩しないからねぇ」

揃いに決まったらしい…


「どれにする?」

「えっと…じゃ、クリームで…」

「よし!決まりだね。次は侍女様のだ」

そう言うと、もっと下の方から箱をゴソゴソ出してきた。


押されっぱなしの展開に、チラッと後ろを見るとアルヘルムは笑いを噛み殺して肩を震わせている。



「これこれ!」

そう言って古びた箱のホコリをフーっと息を吹きかけて払ってから開けると中から風鈴草(カンパニュラ)の刺繍が四隅に入ったハンカチを出してきた。


「前に西の国から来た商人から仕入れたんだよ。いいハンカチだろ?喜ばれる事請け合いだよ!」


渡されたハンカチの刺繍は確かにきれいな刺繍だ。満面の笑みで「おすすめだよ」と言う店主の気迫に押され「あの…これ…」とアルヘルムに目をやると「もちろん、買わせてもらうよ」とアルヘルムは笑いながら頷いている。



「店主、おいくらかな」

「大負けに負けて、全部で銀貨2枚だよ」


高いのか安いのかわからないが、アルヘルムがお金の入った革袋を取り出しているのを見るとボラれてはないらしい。多分。



「籠か袋は持ってないのかい?」

「なにも持ってなくて…」

「しょうがないねぇ、サービスだよ」と言って店主は大判の布に馬とリボンとハンカチを包んでくれた。



「毎度あり! それにしても弟様にお土産を買うだけじゃなくて侍女やメイドにも土産を買うなんざ、良いお嬢さんでお父上様もご自慢でしょうねぇ」

と、アルヘルムからお代を受け取った店主は、うんうんと感心しながらアルヘルムに言った。



ぴきっ!!



「いや〜、この商売長いけど、こんな事は滅多にない事ですよ!お父上様の人徳なのでしょうねぇ。またぜひお嬢様とお買い物においでを。勉強させてもらいますよ」


と、にこにこ笑いながら言うとアデライーデにも

「たまには自分へのお土産もお父様にお強請(ねだ)りすると良いよ。父親って言うのは娘にお強請りされるのは嬉しいものなんだよ」と言うと包んだお土産をアデライーデに手渡した。



「そうですねぇ」と曖昧に笑って包みを受け取ってアルヘルムを見ると、アルヘルムは笑顔(アルカイックスマイル)が張り付いている…



店主に見送られながら広場を後にすると、アルヘルムに声をかけた。



「あ…アルヘルム様?」

「ん?何かな?」


アルヘルムの笑顔(アルカイックスマイル)は崩れない。



「……お土産ありがとうございます」

「うん。良かったね。いい買い物が出来たようだ…」


アルヘルムの笑顔が変わらないのが、すごく心配だ…



「あの…アルヘルム様!」

「ん?何かな?」

アルヘルムは穏やかにアデライーデに微笑む。



--だめだわ… なんと言っていいかわからないわ


「そろそろ、帰りましょうか…」

「うん、そうだね。お土産も買ったしね」




帰り道、笑顔のままのアルヘルムと心配げなアデライーデを乗せた白馬は城までずっと並足で帰って行った。


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― 新着の感想 ―
╰(*´︶`*)╯♡いやそんなまさか『夫』だとは思って無いでしょうな。 アル「。゜(゜´Д`゜)゜。…自覚させられるとはな。」 主人公「(⌒-⌒; )」 第二夫人(最初の妻)「(^◇^;)あなた…」
さかのぼっての感想ですが、ここも印象的な回です。正妃と庶民との絆の第一歩を記した回として。 営業スマイルを浮かべて売り込みをかけたであろう店主さん、貴族のお嬢様がメイドに対して日頃のお世話に感謝を込め…
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