52 出会いと葉っぱ
「「 あっ! 」」
遠くから見つけたとかではなく…
顔だけひょっこり茂みから出たわけでなく…
勢いついて茂みから飛び出してきたので、今更隠れるわけにも逃げるわけにもいかずフィリップは顔を青くした。
--なんでこんなところに!
謹慎はとけたがアルヘルムに教えられた事に頭がいっぱいになり、勉強する気になれず午後の家庭教師が来る前に部屋を抜け出したのだ。
昨日、あまり眠れなかったせいか午餐の後のせいか、お気に入りの木のウロの中で色々考えていたら、うたた寝をしてしまった。
どのくらい寝てしまったのか…走れば間に合うかもと、近道に茂みをかき分けて小路に飛び出したらアデライーデがいた。
昨日の今日だ…
1番顔を合わせたくない相手にバッタリ出くわしてしまった。
しかも手を伸ばせば触れられるくらいの近さに…
--あ〜びっくりしたわ…
鹿かと思ったわ…
ここは…王宮の庭だからアルヘルム様ご一家と会ってもおかしくはないけど…
陽子さんは気を落ち着けてフィリップを見つめると、フィリップが青い顔をしているのに気がついた。
--昨日こってり怒られたって感じね…可哀想に。
ひと呼吸置いて、フィリップに笑顔で声をかけた。
「ごきげんよう。フィリップ王子」
「あ…はい…」
フィリップはなんと返事をしていいかわからなかった。
「えっと…お散歩?…かしら」
「…いえ…はい…」
まさか、お気に入りの秘密のウロでうたた寝して、勉強の時間に間に合いそうにない…などとは言えなかった。
--緊張してるわね。余程酷く怒られたのかしら… まぁ、みんなの前で帰れとか言っちゃったものね。
「あ…あの…皇女様」
「はい、なんでしょう?」
「昨日は、申し訳ありませんでした… それにお許しくださってありがとうございます…」
フィリップは下を向いてか細い声で謝った。自分のした事の重大さを思うと声が小さくなる。
「いいのよ」
陽子さんは、少し屈んでフィリップの頭についた葉っぱを取りながら言った。
「え?あの…ひどい事を言ってしまって…」
「きにしてないわ。それに今ちゃんと謝ったじゃない。もういいの」
フィリップは恐る恐るアデライーデを見上げた。
「お母様を守りたかったのよね? お父様が結婚するって聞いてお母様が追い出されるんじゃないかと心配したのよね?」
こくりとフィリップは頷いた。
「心配しなくていいのよ」
「あ…あの」
「大丈夫、私はお母様を追い出したりしないわ」
「本当に…?」
フィリップは目を見開いてアデライーデに問いかける。
「ええ。子供は心配しなくていいのよ。大人で何とかするから…」
--可哀想に、不安だったのよね…こんな小さな子を心配させちゃだめよね。なんとかしないと…
「皇女様…?」
「アデライーデよ」
陽子さんは、フィリップの服についていた草を払ってにっこり笑った。
「皇女様じゃなくてアデライーデって呼んでくれる?」
「でも…皇女様…」
父上に皇女様と呼ぶように言われたが、アデライーデに名前を呼ぶように言われて、呼んでも良いのかと戸惑っているとアデライーデは、名前で呼ばれる方が落ち着くからそう呼んでほしいと言う。
「…アデライーデ……様…」
「ええ。じゃ、ちょっとお散歩しながらお話しましょうか? フィリップ王子は毎日何をしているの?」
「書き取りや、計算とか乗馬の稽古や剣術の稽古をしています」
「まぁ!すごいのね。色々するのね。誰から習うの?」
「家庭教師と剣術は騎士の指南役から習います」
最初は緊張気味だったフィリップも、気軽に話をするアデライーデに段々と緊張も取れ、こんなことを習っているとたくさんおしゃべりをし始めた。
その頃…いつまで待ってもフィリップが現れず、家庭教師の知らせでフィリップ付きの女官たちは王宮内をあちこち探し回っていた。
「まだ見つからないのですか?」マイヤー夫人の呆れたような問いかけに女官達は「申し訳ございません…王宮内をくまなく探しましたが…」と報告していると、一人の女官が血相を変えて女官長室に入ってきた。
「マイヤー夫人!フィリップ様が見つかりました!」
貴婦人として許されるスピードで急いで来たのだろう…ゼイゼイと息を切らしている。
「どちらに?」とマイヤー夫人が返事をすると、女官は「庭園に…そして皇女様と…ご一緒に…」
マイヤー夫人が真っ青になって「皇女様と? フィリップ様はまさか…また皇女様にご無礼を…」マイヤー夫人が声をなくしていると女官は首を降った。
「いえ…楽しそうに…お過ごしでございます」
「なんと…」
マイヤー夫人は驚いた顔になり、すぐさま「参ります」と女官を連れ部屋を出ていった。




