47 午後に…
「テレサ!」
「陛下…」
アルヘルムはテレサの部屋にノックも無しに入ってくるなり、ソファに座りとうに冷めてしまった紅茶のティーカップを前に、ぼぅと座っているテレサに、大股で近づいてくる。
立ち上がり、テーブルの横に出てカーテシィをとろうとするテレサを搔き抱きアルヘルムは強くテレサを抱きしめる。
その茶色の髪の上に何度も唇を押し当て、テレサを苦しいほどに抱くと頬と頬を合わせ、テレサにしか聞こえない震えるかすかな声で「いいんだ… いいんだ… もういいんだ。テレサ…」と呟きながらアルヘルムはテレサをより強く抱きしめた。
アルヘルムに強く抱かれ、焦点の合わない目で天井を見つめていたテレサの目から一筋の涙が溢れる…
「本当…に?…」
「あぁ…」
「本当に…」
「あぁ、本当だ…!」
テレサは、溢れる涙をそのままにその細い指をアルヘルムの上着に食い込ませ「陛下……陛下!!」と繰り返す…
女官達の姿は、とうに無い。
アルヘルムがやっとその腕から力を抜き、まだ涙に濡れているテレサの頬にキスをした。
「私的な場だと言われた…」
「私的な場…」
「あぁ。あれは家族の紹介と言う私的な場で、公式な場は大臣達からの挨拶だけだったと。それにフィリップの事も、あの年で私がアデライーデ様を迎えると言う事を受け入れられるはずがないと理解を示された」
「帝国は…」と不安げにアルヘルムをテレサは見上げる。
「アデライーデ様があれは私的な場と言い、帝国にフィリップの事を何も訴えないのであれば帝国は介入しようとはしないだろう」
少なくとも帝国が表立って介入する理由はなくなった。
「フィリップはお慈悲をいただけたのですね…」
「あぁ、そうだな」
「私から皇女様に感謝のご挨拶を…」
「そのうち…時期を改めて整えよう」
「はい」
「フィリップには廃嫡の可能性がある事を話しているのか?」
「いいえ…私からは何も…」
「私から話す…」
「はい」
「カールとブランシュを頼む」
そう言うと、アルヘルムはもう一度テレサを強く抱きしめ部屋を出ていった。
テレサは、アルヘルムを見送るとソファに腰を下ろし両手を唇の前で握りしめ「皇女様、感謝申し上げます…」と呟いた。




