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【3/3 2巻発売決定!】転生皇女はセカンドライフを画策する  作者:


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442/445

442 診察室と老医師


「国王陛下並びに正妃陛下、フィリップ殿下のご尊顔を拝謁させて頂きありがたく存じます。ペルレ医療室一同、高貴なる方々のご来島を心より歓迎致します」

小柄で杖をついた白髪の老人がアデライーデ達に恭しくお辞儀をすると、それに習い後ろに控える医師と看護婦達も一斉に頭を下げた。



「出迎え、ご苦労であるベルグ卿」

アルヘルムが挨拶に応え、フィリップとアデライーデにベルグ卿の紹介をはじめた。


「ベルグ卿は王室専属の医師だったのだが、勇退されてペルレに来てもらったのだよ」

「冬毛を纏ったままの狐はいませんからな。時が来たら鬱陶しいだけの冬毛は夏毛に場所を譲るものです」

そう言ってベルグ卿は笑った。



「この一年あまりの島での暮らしはどうだったか」

「楽しゅうございました。王宮では診られなかった様々な人々も直に診られ、また若い民間医から学ぶ事も多うございました」


ベルグ卿は古参の御典医の一人で、伯爵家の血筋を持つ。長くバルク王家に仕えたが元々研究者肌で、誰か信頼のおける医師をペルレに据えるという話が出た時、診療対象が庶民と聞いて目を伏せる者が多いなか、飛びつくように名乗りをあげたのがベルグ卿だった。



この世界での医者は、主に貴族と庶民を診る医者に分けられる。


貴族を診る医者は貴族学院を出て、コネの効かない医療大学院でこの大陸の医学典範を学び、難しい卒業試験をパスしなければならない。そして卒業後に先輩医師に付いて実践と実績を重ねてゆく。中には医療大学院に居ついて薬の開発を専門にする者もいる。


一方、親や師匠から民間療法を学び薬草から薬を作り施す薬草師や、抜歯や骨折の治療をする理髪外科医(肉屋が兼業する事が多い)、たまに先輩との折り合いが合わなかったり、誤診の濡れ衣を着せられて下野した貴族が庶民の医者と呼ばれていた。



「快適でございますな。煩わしい相談事もなく、肩のこる服装もしなくて良いですので」

そう続けて言って、ベルグ卿と呼ばれた老医師はにっこりと笑った。見れば現代の医療関係者と違い、ベルグ卿は深黒のゆったりした麻のローブを着ている。後ろの者達も同じようなローブだが、濃淡の灰色のローブをそれぞれ着ていた。



ーそう言えば、ウニの時のお医者様も黒い普通の貴族の格好だったわね。この世界のお医者さんって黒っぽい服が普通なのね。


それは貴族の医師が社会的地位の高い専門職であり、黒色が威厳や格式を象徴する色だからだ。何故なら深黒の布はお高い。


お高い理由は、布を深黒に染めるには高価な染料や技術が必要だったからである。


日本でも昔、紅下黒べにしたぐろ紅色べにいろで一旦染めてから黒色に染め深い黒に染める技法ーの布はとても高価で、中でも紅紫重ね染め(べにむらさきかさねぞめ)の深黒色の布は高貴な方々に愛された色だった。


現代のように「清潔さ」をアピールするために白い服を着るという考え方はない。



「これまで船員からの病気の持ち込みは無かったか?」

「月に数名、病気を疑われる者がおりましたが、その者達はあちらの扉を案内しております」

アルヘルムの問いに、ベルグ卿は後ろの扉の一つを指差した。


その扉は歓楽街には繋がらず、案内役に連れられて鉄格子のはまった窓のある廻廊を通り、何をどれだけ食べても酒を浴びるほど飲んでも無料の特別な食堂へと繋がる。


この食堂で歓楽街に行けぬと説明された途端、大抵の船乗りは大暴れをする。塩辛い食事とむさい面の野郎ばかりの長い航海から、やっと旨い食事と女にありつけると思っていた絶望感はわかる。


だが、防疫はペルレでの交易のかなめなのだ。


ベルグ卿をはじめとした医師達が、一度入れられぬと診断したのならば、絶対に入れるわけにはいかないとばかりに屈強な警備兵達が腕力で船乗りと対話をし、無料の飯と酒を選ぶか、このまま船へ護送させられるかを選ばせる。


幸いにも今まで隔離して病室に押し込めねばならない程の重症者はおらず、大抵は飯と酒と選ぶ。


ここで役に立ったのが、アデライーデが孤児院に採用した「出る事は出来ても入る事は出来ない扉」であった。診察室と廻廊の途中、そして食堂への扉は全てこの扉である。一旦診療室からの扉が閉められたら、絶対に戻ることはできない。


思わぬところで、ペルレの守りの役に立っている事をアデライーデは知らなかった。



「ところで、正妃様」

一通りアルヘルムへの報告が終わったのか、ベルグ卿がアデライーデへにこやかに笑いかける。


「え? あ、はい」

「がらがらうがいは、どのような効力を持つのでしょうか」



この世界にも前世のインド、ヨーロッパにも鼻うがいはある。

食塩以外にハーブやワインなどを使った洗浄液に専用の器具が用意されこの世界の貴族は医師の指導のもと、庶民は適当に鼻うがいをしていたのだが、日本式の「がらがらうがい」の習慣はないのだ。



「えっとぉ…」

診療室みんなの注目を集め、陽子さんは焦った。

同志社女子大学 うがいの話

https://www.dwc.doshisha.ac.jp/research/faculty_column/12511


平安時代の後期には既に行われていたと記録に残っているのに、検証は2006年とは意外に最近なんですね。


てか、日本人の記録好きってすごいですよね笑


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― 新着の感想 ―
「黒染めは高い」ってのを押さえていない作家さん多いんですよね。ムラなく濃く染めるのはとんでもなく贅沢なので、科学技術が発達していない社会ほど衣服は白っぽいくすんだ色合い、生地に飾りやドレープなどの余裕…
追記です。 今回の衛生管理の下準備は第219話でされていたのでしたね。過去回を見直してみて今更気付きました。 長い期間をかけて体制を整えるにあたり、ヴェルフという長期にわたり現場の仕事に真摯に取り組ん…
>てか、日本人の記録好きってすごいですよね笑 記録好きは、天皇から庶民までらしいですよ(世界的にも珍しいとか)
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