440 セーラー服とナイフ
謹んで新年のお慶びを申し上げます。
本年もどうぞよろしくお願いします。
「うわぁー! 父上、アデライーデ様!見てください! 大きな鳥がたくさん舞っています!」
フィリップの歓声が大きな波音に混ざる。
生まれて初めて乗った船は、何もかもが珍しい。
くぅくぅくぅと鳴く白い長い翼の鳥が、手を伸ばせば触れそうな程近くで飛んでいる。波乗り装置でない本物の船の揺れ。そして強く匂う海風。
陽の光を受けてきらきらと輝く波よりフィリップは目を輝かせていた。
「あれはカモメだ」
そんなフィリップにアルヘルムが後ろから鳥の名を教えてやるが、耳には入らず近くに寄ってきたカモメに触れようとフィリップは手を高く伸ばしていた。
「しょうがない奴だ」
「初めて見るのですから、無理ないですわ」
アルヘルムは呆れたように言うが、自身も初めてメーアブルグに来た時に同じような事をしたなと思い出しながら笑っていた。
今日はアルヘルムとフィリップと連れ立ってペルレ島への視察の日である。
船に乗るのだからと、アルヘルムはゆったりとした白い麻のシャツに、ダボっとした黒いボトムスにブーツというちょっと上品な海賊スタイルだった。
フィリップは白地に水色のラインの入った水兵服に白地に水色のリボンのセーラーハットで陽子さん的には大変可愛らしいが、フィリップには「かっこいいですよ」と伝えると、照れたような笑顔で「アデライーデ様もシルフィード(風の妖精)のようにお美しいです」と返された。
フィリップの紳士教育は順調に進んでいるようである。
そのアデライーデの装いは白い麻のAラインドレスで、肩から肩甲骨辺りまでの細かいレース地が程よく透け七分丈の袖はチュール地に白い花の刺繍が刺されていて、見た目もだが着ていてもとても涼しい。
船を使っての視察という事で裾は短めでローヒールの白い編み上げサンダル、それにアルヘルムから贈られた白い日傘をさしていた。
メーアブルグの港からペルレ島まで1時間程度であろうか、船がペルレ島の港に着くと立派な手すりのあるギャングウェイ(可動式の橋)が架けられた。
アルヘルムにエスコートされ島に降り立つと、倉庫群とその後ろに高さは三メートルは有ろうかという鉄のフェンスが張り巡らされている。そのフェンスの先端は矢じりの形で進入は許さないという意味を表しているのか、とても尖って見えた。
「ようこそ、おいでくださいました」
メーアブルグとペルレ島の兼任であるヴェルフ筆頭代官が部下を従え、三人を恭しく出迎えてくれた。
久しぶりに会うヴェルフは、以前会った時より少し日に焼け皺が深くなったように見える。ヴェルフに初めて会うフィリップは、アルヘルムからヴェルフを紹介された途端に子どもの顔から王子の顔になった。
ヴェルフに最近の停泊船の数や頻度、補給品の量などの説明を受けている間も、寄港している大型船の船員達が威勢良く港から小船で本船へと水樽や食料を運んでいた。
次にヴェルフに案内されたのはアイアンフェンスの先にあった大きな建物だった。
この建物には二つの大浴場と診療所が入っており、構造上ここで入浴して診療所の医師の診断を受けなければアイアンフェンスの中の歓楽街に行けないようになっている。
入ってすぐの広い脱衣所は現代の銭湯と違っていて、長椅子はあるがロッカーみたいなものはない。ここで脱いだ服と靴は鍵付きの箱に入れ受付に渡すのだ。その時に持っていた武器も一緒にカゴに入れなければならない。
持ってきた金だけは、箱に付けられた印と同じ印が付けられた革袋に入れる事を許される。
最初のうちはここで「俺はこのナイフを手放せねぇ」と揉める者もいたようだが、騒げば控えている警備兵につまみ出されるので、最近は揉める者は居なくなったとヴェルフが笑った。
「え? 一人も?」
フィリップが驚いて声をあげた。フィリップも知識として規則を守らせる難しさは教わっていた。そして、それはいたちごっこで、無くならない永遠の課題だと教師からもアルヘルムからも聞いている。
「たまにはどこか抜け穴はないか、ゴネれば無理が通るのではないかと試す輩はおります。『親の形見だから片時とて手放せぬ。それを預けろとは人の情はないのか』などと…」
そう言うとヴェルフの顔から笑みが消えた。
「であればそれを守り、己が快楽を手放せば良いだけのこと。国が折れる道理はございません。何事も例外を作らぬ事、情に見せかけた恫喝に流されない事が肝要でございます」
ヴェルフはさらりとフィリップに答え、アルヘルムがくくっと笑い始めた。
「先王が、まだ若かったヴェルフをメーアブルグの筆頭代官に据えた理由がこれなのだよ」
「あ…はい」
苦笑いをするアルヘルムに釣られてフィリップが応えた。
「もうそろそろ、陞爵を受けてくれても良い頃合いだと思うがな」
「まだまだ私など…」
アルヘルムの軽い誘いを、ヴェルフはいつもどおりに軽く返す。
「お前より堅物な後継を得て、バルクの要の二箇所の治安を守っているのだ。いい加減お前には侯爵にでもなってもらわんとな。一子爵への愚痴に見せかけた苦情もそろそろ聞き飽きたし、それだけの実績は積んだだろう?」
「一足飛びの陞爵は、周りの反感を買います」
「では、侯爵への陞爵は後継の様子を見ながらということにしようか。フィリップ、よく見ておくのだぞ」
「え?!」
「ヴェルフ伯爵の後継の働きをみて、侯爵へ陞爵するか否か、見計らえ」
「……」
「……」
アルヘルムの言葉に、フィリップもヴェルフも返事ができなかった。
「なに、私もお前の年くらいに父上からそう言われ、この年まで決めかねたのだ。時間はある。ゆっくり決めればいい」
そう言ってアルヘルムはフィリップの頭を帽子越しに撫でた。
ヴェルフは出世に関心はなかった。ヴェルフの関心はただ先王に命じられたメーアブルグの治安を守る事、それだけだった。
爵位が上がればそれだけ社交や雑務が増える。メーアブルグの治安維持に必要な権限は子爵の権限で十分だった。
だが、それもバルクが小国であった時のこと。最近のバルクの発展で、確かに子爵のままでは振り払いにくい話も多くなった。
ヴェルフは自分のやりたい事の為に、伯爵への陞爵を受ける事を仕方なく決めた。
トンボ学生服さんのページ
そりゃかわいいですから、
真似したいですよねー(*´ω`*)
https://www.tombow.gr.jp/uniform_museum/pocket/03.html




