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【2巻も準備中!】転生皇女はセカンドライフを画策する  作者:


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412 追伸と意地

夏の暑さが本格的になりだしたとある午後、フィリップが一冊の本を携えて離宮にやってきたのだ。



「こ…、これは…!」

それほど厚くない革表紙の本のタイトルを見て、アデライーデはわくわくとしながらフィリップから本を受け取った。


その本は見事な細工が施された赤い革表紙の本で四隅に飾り金が付けられていた。本自体がとても美しく、興味が唆られる装丁だが、それよりその本に綴られた金文字にアデライーデの目が釘付けになる。


その本のタイトルが「ノアーデンの料理 宮廷料理から庶民料理まで」だったからだ。



「リネア姫がアデライーデ様にと、贈ってきてくれたのです」

「まぁ。とても嬉しいのですわ。でも、どうしてリネア様が私にこの本を?」

貴重な北国の料理本を頂けるのはとても嬉しいが、なぜ顔合わせもしていない自分への贈り物なのかが不思議だった。


当たり前だがアデライーデはフィリップの婚約に関して何も関わっていない。


続き柄的にはアデライーデはフィリップの義理の母となるが、実の両親がいるのだ。そんな事に口を挟む気もないし挟みたくもない。ただ報告という形で聞いて、おめでとうと祝っただけである。



「リネア姫に初回の手紙を送った時に、追伸でアデライーデ様がとてもサーモンの話に興味を持たれていたと書いたからだと思います!」

フィリップは、何故だがちょっと誇らしげに婚約者からアデライーデへの贈り物の理由を教えてくれた。



王族同士の結婚の場合、婚約内定の段階でほぼ結婚は確定だ。ゆえにお互いの王家の了承のもと将来の夫婦としての絆を深める為、フィリップとリネアの交流が推奨される。


現代と違い手軽に電話やチャットで交流は出来ないから、基本二人の交流はお手紙だ。


手紙一通を届けるにしても王家同士の手紙であるから、警護付きの馬車で使者が往復半月ほどかけて手紙を運ぶ。そして、月に一、二度の手紙の交流が二人の結婚式まで続くのである。


初回の手紙は男性側から送るのが習わしらしい。

フィリップはゲルツ先生から正しい「将来の婚約者へ宛てる初めての手紙」の書き方の指導を受け、何度も書き直し丁寧に手紙を書いたと話してくれた。


婚約者に書く手紙に正しい正しくないと言うのがあるのかと陽子さんは驚いたが、レナードの補足によると初回の手紙は公的な意味もあるらしく一枚目に定型文っぽいのを書くらしい。


そして二枚目からの追伸に、現代人の陽子さんが思っている「手紙」の内容を書くようだ。


フィリップはそこに波乗り装置や馬やサーモン、アデライーデが尋ねた蟹の事を書いたらしい。



「ゲルツ先生はなんだかもっと…詩的な文章にって言われていたんですが、波乗り装置の事をどう詩的に書いていいかよくわからなくて難しかったです。初回からあまり枚数が増えても良くないらしくて、さらりとした文章で書いたんです」

「………。波乗り装置を詩的に書くのは…、難しいと思います…ね。そこは無理せずにさらりとした文章で良かったと思いますよ」

アデライーデがそう言うと、フィリップはほっとした顔をし、波乗り装置の事を知っているレナードはゲルツ先生の苦悩を察して遠い目をした。



ゲルツ先生は追伸に、一般的に女性が好むようなロマンティックに満ちた文章をフィリップに書かせたかった。


ところがフィリップにどのような追伸を書くのか尋ねると、返ってきた答えは波乗り装置に馬に魚に固い殻を持つ海の生き物の話である。どれもロマンティックには程遠いと感じる。


どうしても書きたい話かと確認すると、フィリップはどうしても書きたい話だと真顔で返した。



ー100歩譲って馬は良しとしよう。

ゲルツ先生は汗でズレた眼鏡を直しつつ考えた。リネアのヴェガルドは夜の帳と表現でき、フィリップのシグリットは朝日が昇る時の曙色と表現できる。

そこは問題ない。


波乗り装置……フィリップ様から聞く限り、立つ事すら容易ではない尻もち製造装置ではないか!? いや、待て。船を模しているならその方向で表現できないか? うん、海と船のイメージだ。何とかなるかもしれない。


だが、しかし…。サーモンという赤い身の魚と固い殻を持つ得体のしれない多足の生物…。これをどうロマンティックに表現するか…。いや、自分が知らないものを迂闊に表現できない。危険だ。ノアーデンでどのように扱われている物かわからないうちは、下手な表現はしない方がいい。


ゲルツ先生は気を取り直し他の話題はないかと、リネアと初めて会った時に印象に残った事はと尋ねたが、フィリップから返ってきた話はリネアがカエルを鷲掴みにした事と訓練の話だった。


飛びそうになる意識を立て直し追伸の下書きを宿題に出したゲルツは翌日、一縷いちるの望みをもって訓練場に向かったが、波乗り装置が動くさまを見て膝から崩れ落ちた。


兵士達の野太い掛け声と鉄球が転がる遠雷のような音に、ロマンティックの欠片も感じられなかったからだ。


そうやってゲルツ先生が思い浮かべたロマンティックとは程遠い、あっさりとした追伸となった。ただ文頭の初夏の庭園の様子だけは素晴らしくロマンティックに書かれていた。そこには詩も教える教師としてのゲルツの意地が行間に滲んでいた。



https://youtu.be/lQ50XdqfG00?si=5LHNoV0MihGuanB0


中世での本の作り方の動画です!

24分くらいあるんですが、見入っちゃいましたよ…笑

いや…これだけ手間暇かけて一冊を作るのならどんな本も高価だったってわかります。ものすごい工程と時間を費やしてます。

見ていて楽しい動画です(*^^*)

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― 新着の感想 ―
2巻をご準備中とのこと、嬉しいです。発行を心待ちにしています。 ゲルツ先生がいかにロマンティックを重視しようと、フィリップやリネアの手紙にそれを求めるのは無理そうですね。詩的に言葉を飾っても、本人ら…
2巻おめでとうございます。楽しみすぎる! 豪華な料理本…想像するだけで幸せ! 中身はどれだけカラフルで、飾り文字とかイラストが素晴らしいか見てみたい!! 鮭も、アデライーデ様がおねだりしたら速攻スモ…
中世の本といったら映画や本で見た修道院の修道士が羊皮紙に写本しているイメージがあって、グーテンベルクの活版印刷機の発明で楽になったとしても大変な作業ですよね。価格にしても王侯貴族くらいしか手に入れられ…
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