40 貴賓室での初顔合わせ
アデライーデはマリアに鴇羽色のドレスを着付けてもらい、真珠のお飾りをつけていた。
初めてここのバスルームを使うので、3人のメイド達にも手伝ってもらった。
いつもより手早く入浴を済ませられたので、マリアの入念なマッサージを受けるともうこのまま、寝てしまいたいくらいだった。
3人のメイドさん達は「お手伝いできることがあれば」と申し出てくれたので、ありがたくドレスのお支度まで手伝いをお願いすると流石、王宮勤め。若くても手慣れている。
マリアがお化粧と髪をハーフアップにする手付きを食い入るように見つめていたメイド達は、マリアが持ってきたドレスを出してきた時に、「まぁ!」と目を輝かせる。
「帝国では、成人のお披露目の時に纏うドレスなのです」とマリアが説明をすると、「さすが皇女様のドレス…素晴らしいです」「お手伝いするのが怖いくらいです」と言いながらもそつなく手伝ってくれた。
「バルク国では成人のお披露目の時に何か決まっている事があるの?」
アデライーデがメイドの1人に声をかけると、緊張した面持ちで少し恥ずかしげに「帝国のようにドレスに特に決まり事はありませんが、女性貴族は何か生花で髪を飾る事と男性貴族は家の色を表すチーフをつけるくらいでしょうか」とバルク国のお披露目事情を教えてくれる。
「まぁ、色とりどりのドレスで華やかなのね」
「いえ、帝国のお披露目に比べたら…」
メイドは、恐縮しきりでアデライーデのドレスの裾を整えていた。
お支度が済むと、先程メイドのひとりが呼びに行ったらしいマイヤー夫人がアデライーデの先導のために訪れてきた。
「お支度はお済みでしょうか」
「ええ、彼女達に手伝って貰って助かりましたわ」
「もったいないことでございます」
マイヤー夫人が目配せすると、メイド達は一礼をして下がっていった。
「では、ご案内いたします」
マイヤー夫人に案内された部屋は、最初に通された貴賓室だった。
入室して「こちらでお待ちを」と、部屋の中央に立たされるとすぐにアルヘルムが奥の扉から侍従長を伴い入ってきた。
30前後で濃茶の髪に黒みがかった緑の瞳。渋みはないが男性らしいキリッとした顔立ちをしている。王という地位のせいか落ち着いた印象だ。
背も高めの180くらいでスラッとしている。
--この世界の人は美男美女が普通なのかしら。イケメン率高いわね。
「遠路遥々我が国までお越しいただき感謝いたします。フローリア帝国第7皇女アデライーデ様。こちらはバルク国国王アルヘルム・バルク陛下でございます」
侍従長のナッサウにそう紹介されるとアルヘルムはにこやかに笑いながら「初めてお目にかかる。フローリア帝国アデライーデ皇女殿下」と胸に手をあて挨拶をした。
約束されているとは言え婚儀までの身分は、帝国の皇女であるアデライーデの方が高い。
「歓迎ありがとうございます。アルヘルム国王陛下」
アデライーデも淑女の挨拶を返す。
--確かにブルーノの言うとおり美しい姫君だ。
帝国の血筋の特徴を色濃く引いているし…皇帝の実子なのは間違いないようだ。
アルヘルムと宰相のブルーノ・タクシス、それにナッサウ侍従長はアデライーデが帝国で忘れられた皇女と言われているのを知っている。
「お疲れになったでしょう。早速ですがささやかながら殿下の為に食事を用意しています。いかがですかな?」
「お気づかい、ありがとうございます。楽しみですわ」
アルヘルムは会話が途切れる前に、さっさとアデライーデを晩餐に誘った。
ナッサウは内心ぎょっとしたが、さすが侍従長を勤めて長い…顔には出さず侍従達に目配せをすると一人の侍従が静かに退出して行った。
本来であればここで少しお茶をするか庭園を散策し親睦を深める予定だが、どうせ食事中に会話がある。晩餐に誘うと思いの外アデライーデは嬉しそうに同意した。
--助かったわ。ここで長くお話になるより早く終わらせて部屋に戻りたいわ
--助かった。手早く晩餐を終わらせよう。
案外この2人、似たもの同士かも知れない。
助かったと思っている2人をよそに、
慌てているのは、すぐに晩餐を始めると知らせを受けた厨房と給仕たちだった。
それぞれの思惑を胸に、アルヘルムは晩餐の間にアデライーデをエスコートした。




