04 グランドール 回顧
誰だ…あれは誰なんだ。
アデライーデに別れを告げ、足早に王城内の自室に戻る道すがらグランドールはずっと考えていた。
いや、茶を飲んでいた途中からだ。
数日前、グランドールが初めて会った『忘れられた皇女』と言われるアデライーデは、深窓の令嬢らしく告げられた輿入れの内示に真っ青になりながらも頷き、私が退出するのを見送るのがやっとという風情であった。
あまりの蒼白さに、今相手を告げれば倒れると思われるほどであった。
その為、グランドールは輿入れ先を告げずに早々に退出したのだ。
それが、今日会ったアデライーデは輿入れ先が辺境のバルク国と聞いても顔色一つ変えず…まるで小旅行先を聞くかのように微笑んだ。
そして相手国の情報が欲しいと要求してきた。
要求してきた内容は渡しても問題のない範囲とはいえ、アデライーデの豹変に判断に迷い濁しているといきなり言葉で刺された。
「よく調べもしない国と盟約を結び皇女を輿入れさせるのですか?」
その時、グランドールに向けられたアデライーデの威圧。
穏やかな微笑みに優しく凪いだ海のような声だったが、グランドールには吹き荒れる嵐の海に引きずり込まれるような心境になった。
反撃もできず頷くしかなかった自分を、恥入る。
一国の宰相として並み居る貴族や周辺国相手に交渉してきてそれなりの経験も自負もある…
その自負がなぜあの時に、ただの14の少女に砕け散ってしまったのだろう。
アデライーデは、マナーやダンス等の貴族女性としての教育やこの国の歴史などの最低限の教育を受けたとは聞いているが、あれはなんだ。
あれが14の小娘だと?冗談じゃない。
若き日にあった北の国の老練な宰相との会談が思い出された。気圧されないように無表情に努めたがそれすらもアデライーデに見透かされているような気がする。
数日前に初めて会ったあれこそが、『忘れられた皇女』のイメージそのままのアデライーデだった。
儚く庇護欲を掻き立てる
薄幸の皇女
だのに、今日のアデライーデは何十年も帝国を治め続けている皇帝のような気を持っていた。
同じ顔同じ声、確かにあれはアデライーデで間違いない。
間違うはずが無い。父親の血統の特色を強く持つアデライーデの身代わりはそうそう居ない。
不安要素は小さいうちに潰しておくべき…
いや、すでに小さくはない。
執務机のベルを鳴らすとグランドール付きの従者がそっと近寄ってきた。
「お呼びでしょうか」
「アデライーデ様を調べて欲しい」
「アデライーデ様を…ですか?」
告げられた相手が意外だった従者は、アデライーデの名前を繰り返した。
「そうだ」
「…アデライーデ様のどのあたりをお調べいたしましょうか」
「全てだ。生まれてから今日まで。血縁から交友関係。関わったものすべて。そして…本人が本人であるかも含めてだ」
「承知いたしました」
一礼し薄暗くなった部屋の片隅に消える従者を見送ったグランドールは椅子に深くもたれかかった。