36 バルク国への道中
翌日、バルク国に向かう馬車の中でアデライーデは、マリアと二人向かい合っていた。
出立前、グランドールからバルク国王に宛てた書状や輿入れの目録などの引き継ぎの為の文官、護衛の騎士や従者達を紹介をされた。
輿入れのお道具を積んだ荷車も合わせると結構な大所帯になるようだ。
ローザリンデの言葉通り、エルンスト達の姿はなくグランドールに見送られ王宮の正門からの静かな出立だった。
約1時間に1度休憩を取ると聞いてこまめな休憩だと思っていたが…
納得だった。
――お尻と腰が痛い……そして悪路は馬車酔いしそうだわ…
王族用の最高級馬車らしいが、陽子さんにとっては、自転車で舗装されていない道を長時間走っている様なものだった。
帝都の中は石畳だったのでまだ良かったが、街道は整備されているとはいえ、土。轍や穴を踏んだ振動がほぼ直接お尻に響く。
現代の車に乗り慣れている陽子さんにとってはかなり厳しい。
変わりゆく景色にマリアは感嘆の声をあげるが、陽子さんはそれどころではない。
景色は素晴らしいが、それよりもお尻と腰が痛かった。
――王族と言えど旅って楽じゃないのね。
毎回の休憩では、こっそり伸びをしお尻を揉んだ。
そして、遠征用のトイレ付馬車を付けてくれたグランドールには本当に感謝しかない。
1時間に1回の休憩で約6時間ほどの移動。
馬の食事に時間がかかるため、お昼は長めに取るようだ。
そして早めに宿場の名のあるホテルに泊まるが、泊まる先々で歓迎セレモニーが繰り返される。
本来、皇女様が立ち寄ってくれたもてなしにと領主主催で盛大に歓迎パーティが開かれるらしいが、「成人前で公式行事に慣れぬから」と帝国からのお達しがあったらしく最低限の社交で済んでいる。
が……
そのホテルがある領主夫妻のご挨拶。
ホテルオーナーのご挨拶。
これは絶対に外せないらしい。
領主夫妻は、輿入れの披露の時に1度しか姿を現していないアデライーデになんとしても覚えめでたくなりたいと、色々話を振ってくるが慣れない馬車の旅で疲れ切っている陽子さんは、早くドレスを脱いでお風呂に入りたい一心だった。
グランドールが付けてくれた文官が、予め決められている時間できっちり止めてくれて本当にありがたかった。
残念そうに下がってゆく領主夫妻と違って、世慣れたホテルオーナーの対応は良かった。
どのホテルオーナーも、「当ホテルにお泊まりいただき光栄でございます。皇女様はお疲れでございましょう。お好みがわかりませんでしたので、こちらでご用意させていただきました。お好きなものをどうぞ…」と、簡単に挨拶をして大ホールいっぱいのご馳走を用意して下がってゆく。
ほっとして食事を終え、あとはお付きの騎士や従者たちにご馳走を任せ、部屋でお風呂に浸かるともうくたくただった。
マリアを始め、同じ様に馬車に乗っている文官達や騎乗している騎士たちは平気な顔をしている…
――体力、つけなくっちゃね。私だけへばっているわ…
中身の陽子さんもそうだが、アデライーデの体力自体もそうある方ではない。ダンスを習ったりしていたが、ほぼ引きこもりの生活が基本だったのだから持久力がないのはしょうがない。
――確か馬車って時速8〜10キロくらいって聞いたことあるわ…
時速10キロだとして1日60キロの7日で420キロくらいかしら…
東京から京都か大阪位までかな…。案外近いのね。
3時間でとは言わないけど1日くらいで行けないかな…お尻がもたないわ…
そうして、7日目のお昼過ぎにバルク国の国境に着くと国境にはバルク国からの迎えの一団がアデライーデ達を迎えに来ていた。




