353 食後のお茶とお出かけ予定
ーふぅ…お腹いっぱい! 大満足だわー。
デザートがわりの生ウニもおかわりして、アデライーデ達は場所を居間に移した。
ウニに興味を持っていたアルヘルムも、粗く削った氷に乗せられた生ウニをしげしげと見つめ、最初は恐る恐るだが口にすると気に入ったようで、おかわりをしていた。
「あれが、初冬から初春までしか食べられないのは残念だ」
ハイニーじいさんによると、ウニがおいしく食べられるのはその時期だけらしく、食べられてもあと少しの間だけらしい。
「冬のお楽しみですね」
「そうだね。皆にお披露目は年末だな」
食後のお茶を楽しみながら、アルヘルムはアデライーデにガラスの街やメーアブルク近くの新しい街の事、そろばんの国外事業の事を話して聞かせた。
ガラスの街と新しい街はかなりのスピードで工事が進んでいるという。
特にガラスの街は、メイン建物が大型とはいえ温室なので、時間のかかる土台と骨組みが出来上がってからは、あっという間に完成した。今は土つくりと近隣各地から珍しい植物をとりよせている。
どちらかといえば、帝国からガラスの街に通じる道の方が時間がかかっているらしい。
今は温室を中心に小道をつくり、それに沿って草木を植え素朴だけれど可愛らしい平家の家を建てている。
バルクの名のある庭師たちにより、街全体が前世のイングリッシュガーデンのように、さまざまな草木で埋め尽くされようとしている。
貴族の庭園は管理され、刈り込まれた生垣や花壇が主流である。それらを見慣れた貴族を唸らせる庭園はすぐにはできない。
だからこそ、ガラスの妖精が住むをテーマにして妖精が好みそうな自然な庭。イングリッシュガーデン風な作りにしたのだ。
新しい街の方は石造りの街なので、まだ大通りが一本と簡易倉庫ができたくらいである。
「新しい街の名前をそろそろ考えないといけなくてね」
「まだ候補がありませんの?」
「いや、ありすぎて絞りきれない…と、いう方が正しいかな」
ーぴん!
イヤナヨカンガ、スル。
「……絶対に私の名前はつけないでくださいね」
「……いや、そんな話はでてないよ。うん」
実は会議でもアデライーデの功績を讃え、街にアデライーデの名を冠するのはどうかと、貴族達から度々進言されていた。アルヘルムも今度ばかりは良いのではないかと思っていたが、やっぱりだめらしい。
目を泳がせたアルヘルムに釘を刺しておいて良かったと、アデライーデがジト目で軽く睨むとアルヘルムは、慌てて話題を変えてきた。
「そうそう、ライエン伯の領に作る競馬場だけどね。見に行かないかい? ガラスの街ができる頃にね」
「え? 見に行けるんですか?」
「あぁ、競馬場建設のきっかけは貴女だからね。お披露目前に、ぜひとの事だ」
アルヘルムの話によると、競馬場はほぼ現代の形に近いらしい。
元々ライエン伯領は馬の産地である。現代のように馬の品評会のようなものはなく、馬を買いたい者がそれぞれの牧場に直接買い付けに行くスタイルらしい。
競馬場建設の話に、ライエン領の牧場主達は喜んだ。長い戦も終わり軍馬の需要は以前ほどは見込めない。競馬なるもので優勝すれば人目を引き、いい条件での取引が見込まれる。
それならばとアイディアを出し合い、領で初の競馬場建設を進めているらしい。
「楽しみですわ! それは何時ぐらいですの?」
「初夏くらいかな。その頃にはガラスの街もほぼ完成しているだろうからね。それに今度はミュラー夫人もバルクに来れるそうだ」
ミュラー夫人は、アメリーの古くからの友人で帝国の『瑠璃とクリスタル』開店の立役者である。メラニアと意気投合し、バルクの『瑠璃とクリスタル』開店時に呼ばれるはずであったが、酷い風邪を拗らせ寝付いてしまい来ることが叶わなかった。
幸い手紙でのやりとりができた為、メラニアと親交が続き、メラニアの推薦で夫人にはガラスの街に相応しい『瑠璃とクリスタル』のような演出をと依頼したのだった。メラニアとは3日と空けず頻繁な手紙のやりとりが続いている。
今は帝国に帰国しているアメリーの帝国での婚約式や結婚式、披露宴の準備を手伝って奮闘しているらしい。
もう少ししたらコーエンも帝国側での式の為に出発するのだが、コーエンは作業場に缶詰になっていた。
ライエン領につくるそろばん工房の許可を得る為にー実際はほぼ決定しているがー帝国にそろばんを2丁献上するのだ。最高の素材で持てる技術の全てをつかってと、寝る間も惜しんで励んでいる。
ー今年は、お出かけが多くなりそうで楽しみだわ。
今から、バルクに嫁いで初めての遠出に心を弾ませるアデライーデであった。