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【2巻も準備中!】転生皇女はセカンドライフを画策する  作者:


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312 ラプンツェルと玉ねぎケーキと白い羽


アルヘルムとアデライーデの会話が一段落ついたのを見計らったように、2人の給仕がワゴンからプレートを出してきた。


「玉ねぎとウサギのケーキとラプンツェルのサラダでございます」

音もなく置かれたプレートには、少し大ぶりに切られた玉ねぎケーキの周りをぐるりと取り囲むようにラプンツェルが盛られ、彩りに千切りのにんじんが散らされている。


すぐに給仕が小さなレードルで、レモンベースのドレッシングをラプンツェルにかける。


ケーキといっても甘いお菓子のケーキではなくキッシュのような塩味の効いたものである。土台はしっかりとしたタルト生地で、フィリングにはたっぷりの玉ねぎを炒め卵とサワークリームを使う。

仕上げにキャラウェイシードを散らせば玉ねぎケーキのできあがりである。保存のきく玉ねぎを使ったこのケーキは、バルクでは秋から冬にかけてよく食べられる。


玉ねぎのケーキには豚肉が入ることが多いが、今日はウサギらしい。鳥肉に似ているが鳥肉よりコクがあり、特に冬は脂がのって美味しい。


ラプンツェルは冬にとれる貴重な葉野菜で、株はこぶし大くらいまでなり、厳しい冬に痩せた土地でも丈夫に育つ。貴族だけでなく庶民もよく食べるラプンツェルはヘーゼルナッツ風味だからか、野菜が苦手なアルヘルムも好んで食べる冬のサラダの定番だ。もちろん、アデライーデも大好きである。



「ほう、今日はウサギなのか」

「良いウサギが手に入ったからとの事でございます。玉ねぎケーキには『白い羽』でございますが、時期が過ぎておりますので、代わりに蜂蜜酒の炭酸割りをお持ちしました」


給仕はそう言うと、蜂蜜酒の炭酸割りが入ったフルートスタイルのグラスを置いてゆく。


-え、それってまさか!!


「『白い羽』ってなんですの?」

グラスに口をつけつつ、動揺を押し殺してアデライーデがアルヘルムに尋ねると、カトラリーを手にしたアルヘルムは玉ねぎのケーキにナイフを入れながら答えた。


「あぁ、この玉ねぎケーキと一緒に出されるワインだよ。秋の2ヶ月ほどしか飲めないワインでね。ワインの赤子と言われるんだ」


-やっぱり!


「それって、もしかして…。発酵途中の白ワインの事ですか?」

「おや、よく知っていたね。飲んだ事あるのかい?」


アデライーデの質問に答えつつも、アルヘルムはもりもりと玉ねぎケーキを口に運ぶ。



-あるわよ。35年ほど前の新婚旅行の時に、ドイツでね。ずーっと飲みたかったよね。



初めて飲んだ時は驚いた。濃厚なりんごジュースのようなすっきりした強い甘みの口当たり。その甘みからとても飲みやすいが、アルコール度数は意外と高く、作りたては4%くらいだが、発酵が進むにつれて約11%にもなるのだ。


ドイツ語でフェーダーヴァイサーと呼ばれる発酵途中の白ワインは、ボトルの中で炭酸が発生し続けているため密封することができない。


陽子さん達が少しの間部屋を借りていた大家さんからのおすそ分けでもらったフェーダーヴァイサーの瓶の蓋は、アルミ箔が被せてあっただけだ。


持ち運びには注意が必要で、大家さんは専用の籠を下げてワイナリーに買いに行くと聞いた。


日本に帰ってきて早速探したが、当時はインターネット黎明期。情報はほぼなく、図書館で調べると日本では酒税法の関係でワイナリーでしか飲めず、飲ませてくれるワイナリーもほぼなかった。


欧州に旅行に行き現地でその時期に飲むしかない幻のワインと、本には書かれていた。


まだまだ子育てに手がかかる頃、山梨の方に飲ませてくれるワイナリーをネットで見つけたが、秋は子供の行事が多くて行けなかったのだ。


-いつか行こういつか行こうと思っていたのよね。でも、ここで迂闊に飲んだとは言えないわ。本物のアデライーデなら年齢的に、ほぼ確実に飲んでないはずだもの。


「え? いえ…本で読んで。どんなものか興味があったんですわ。幻のワインと書かれてあったので」

飲んだことはないが、興味があると強調して答える。



「そう言えば、アデライーデはワイン好きだったな」

「えぇまぁ。ところでバルクで『白い羽』はよく飲まれるのですか?」


身を乗り出して聞きたい1番の質問を、さりげなくした。


「そうだね。でもワイナリーの周辺の村でかな。運搬に気を使うから、王都の庶民はあまり飲んでいないかな。ワイナリーを持つ貴族が領地でパーティをする時にはよく飲むみたいだね」

「そうなのですね。やはりワイナリーでしか飲めないのですね…」


ここでも同じなのだと、陽子さんはちょっとしょぼんとした。しかし、35年思い続けてきたフェーダーヴァイサーとの再会を諦めたくない。


かくなる上はワイナリー見学をお願いしてみるべきか。近くにあるといいのだがと思いながら、ちらっとアルヘルムを見ると、すでにプレートをきれいにしたアルヘルムがおかしそうにこちらを見ていた。



「今は無理だけど、今年の秋には飲めるよ」

「え?」


「バルク王家もワイナリーを持ってるからね」

「本当ですか?」

アデライーデの笑顔が弾ける。



「あぁ。毎年白い羽も献上されるからね。今年の初荷は離宮に運ばせよう」



やった!やったわー



ドイツでは秋になると、「フェーダーヴァイサーあります」と看板が出されているワイン農家で、できたてのフェーダーヴァイサーを買うことができます。ちなみに赤ワインもあります!その場合はフェダーローターと言います。


日本ではあまり知られてませんが、とってもとっても美味しいんです。お近くにワイナリーがある幸運な方は、ぜひ1度調べてみてください。


ドイツ語で玉ねぎケーキは「ツヴィーベルクーヘン(Zwiebelkuchen)」という名前になります。これも美味しいんですよね。


あとラプンツェルのサラダのラプンツェルは、あの髪長姫ラプンツェルのお話に出てくるラプンツェルです。この野菜はドイツの地方によって、いくつも名前を持っています。

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― 新着の感想 ―
[一言] 楽しみが増えて良かったですね~(゜∀゜) でも、体は未成年者であることだけは忘れないで下さいね(笑)
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