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31 婚儀披露宴


王宮の1番大きな広間に国内の貴族が続々と集まっていた。



身分の低いもの達は時間よりかなり早めに。

高位になるほど、時間の少し前に入るように調整される王宮のパーティは、手慣れた使用人たちにより粛々と進められる。


開始時間の少し前に、それまで流れていた音楽に変わり皇帝陛下のお出ましの楽曲に変わる。


出席者達は奏でられる音楽で宴の開始時間が迫っていることを知り、それぞれの地位にふさわしい場所に移動し、陛下がお出ましになる扉を注視して静かに始まりを待つ。


その楽曲も終わり、近衛騎兵が「皇帝陛下の御成りでございます」と触れを出すと皇帝と皇后、そしてアデライーデがゆっくりと会場入りした。

3人の入場を確認すると、男性貴族が頭を垂れ女性貴族はカーテシィをする。


陛下の「面をあげよ」の声に応じ、顔を上げた皆の視線が3人に集まった。

皇帝、アデライーデ、続いて皇后と並び高座にて皆に相対している。



「皆のものよ、我が娘アデライーデの婚儀の祝いに集まってくれた事を嬉しく思う。ささやかながら宴を供する。限りはあるが楽しんでもらいたい」


そう陛下が皆に挨拶すると、口々に「おめでとうございます」「帝国に幸いあれ」の言葉が飛んだ。



早速第一王子夫妻からの挨拶が始まった。

成人している者しか公式のこの場には出席できないので第3王子までが挨拶をし、最後に未婚で成人している第6皇女のカトリーヌの挨拶となった。



カトリーヌは「陛下、カトリーヌでございます。アデライーデ様のご結婚おめでとうございます」そう挨拶をすると、アデライーデに視線を向け上から下まで品定めするように見た。



「カトリーヌ、次はそなただな。相応しい縁組を考えよう」

カトリーヌの様子を見ていた陛下がそうと告げると、カトリーヌは途端に笑顔となり、アデライーデには勝ち誇ったような笑顔を向けた。


「お待ちしております」

そう応えると挨拶を済ませ、皇女の立ち位置に戻っていく。



(お姫様って言うのに、性格悪そうね)

陽子さんは、先程のカトリーヌの視線に笑顔で応え、心の中で毒づいていた。


続いて妃達の挨拶であったが、流石に年をとっているだけあってカトリーヌのようなあからさまな態度ではなかったが窺うような視線を、陽子さんは感じ取っていた。



入場後、貴族たちと相対すると皆一様に驚きの視線だった。

まぁ忘れられた皇女と言われていたらしいので、初めてアデライーデの顔を見て皆びっくりしているのだろうと陽子さんは考えていた。


第1王子をはじめとする王子達のにこやかな笑顔は良かったが、カトリーヌの微妙な態度と、続く妃達の嫉妬を隠した笑顔を見て

(流石、王宮。どろどろしてるわね。皇后様のお人柄が良かっただけに余計にくるものがあるわね)と心の中でため息をついていた。



妃達の顔はわかる。

寵愛を争った相手の娘だろうから、普通に遇されていても気に入らないんだろうな。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いよねと思うが、カトリーヌのアデライーデを品定めするような視線と「私の方があんたより良い結婚相手を見つけてもらえるのよ」って顔を見て、性格の悪さを感じ取った。


お姫様って、もう少したおやかでおっとりとしているものじゃないのかしら…これじゃ普通の面倒くさい親戚関係とかと変わらないわねぇ

まぁ、親戚関係よりももっと七面倒くさいんだろうけど。



そんなことを陽子さんが考えているうちに、高位貴族の挨拶は終わったようだ。


直接祝いの言葉を述べられるのは、高位貴族のみ。

全員の挨拶を受けていては夜が明けてしまうので下位貴族は、先程の皆の祝いの言葉でまとめられる。


宮廷楽士が音楽を奏で始めると、貴族達は広間の端の方に移動を始めた。

今からダンスが始まるのだ。

婚儀の披露ではその主役たちがファーストダンスを踊るのだが、アデライーデの夫はここにはいない。


その場合は皇女の兄弟や父親が代理を務める。

しかし…アデライーデには兄弟はおろか外戚もいない…


誰か代理を任命されるのか、任命されるとあれば栄誉なことなので貴族達が固唾を飲んで見守っていると、皇后陛下がほほえみながら陛下とアデライーデに何事か話しかけてた。

皇后が親しげにアデライーデの肩に手を添え耳打ちしていると、侍従が陛下のマントを解き預かる。



まさか陛下が?


慣例として陛下は皇后としか踊らない。

妃達とも皇女達とも寵愛争いの素となる為、公式の場で踊ることはない。

皇后以外は国外からの賓客の奥方と、儀礼として一曲踊るのみ。

唯一の例外は皇太后陛下とのダンスだが、皇太后は随分前に崩御されている。



その貴族達の動揺をよそに、陛下はアデライーデの手を取り広間の中に進み出た。

誰もダンスを始めず皇后をちらちら見つつ、2人に注目していた。



「お父様…私たちだけで踊るのでしょうか?」

不安げにアデライーデが尋ねる。


「そのようだね。嫌かい?」

「注目を浴びるのに慣れていなくて…」

「私もだよ」


エルンストは広間の中央に行くとアデライーデをリードしてダンスを踊り始めた。



「もう長い間皇帝だが、未だに注目には慣れぬな。アデライーデが慣れないのも無理はない。ところでダンスはクラウゼ夫人から習ったのだったか?」

「はい…(多分)」

「そうか…娘のファーストダンスの相手とは光栄なものだ」

エルンストはそう言うと、アデライーデに微笑みかけた。


そうして、1曲目が終わって2曲めを続けて踊る。

ダンスは同じ相手とは一夜で1回しか踊らない。

複数回踊るのは婚約者か夫婦のみだが、親兄弟はこの限りではない。


「アデライーデ、この曲で最後にしよう」

「良いのですか?」

アデライーデがそう言うとエルンストは嬉しげにそして少し悲しそうに言う。


「あまり得意でなくてな。足を踏まずに踊れるうちに終わらせておこう。皇后になにか言われなかったか?」

「えっと…何も」

エルンストは笑ってそうかと頷いた。



実は皇后には、3曲目を誘われたら1度お休みを入れなさいと耳打ちされていた。



2曲目が終わり、高座に戻ると3人には椅子が用意されていた。

「陛下ばかり独占してはズルいですわよ」皇后が高座を降り2人を出迎え、アデライーデの手を取りエルンストに文句を言う。


「ね、なにか飲みましょうか?踊ったあとだから、シャンパンがいいかしら?それとも果実水?」

「シャンパンを飲んでみたいです、皇…」

「あら!」皇后は、そう言うとちょっと目を見開いていたずらっぽく声を出す。


皇后はどうしてもここでアデライーデに「お母様」と呼ばせたいようだと思った陽子さんは、それに応じた。


「…シャンパンを飲んでみたいです。お母様」

「そう! シャンパンね。では席で頂きましょう」

「はい、お母様」


「大丈夫だった?」歩きながら小声で皇后が尋ねる。

「踏むかもしれないから、2曲までにしておこうと仰られましたので…」

「ふふっ エルンストったら。ね?終わりに1曲ねだってあげて」

「はい。こ…お母様は踊らなくてよろしいのですか?」

「今から3曲目のあの人とは絶対に踊りたくないわ」

皇后の笑顔から強い意志を感じると、アデライーデは苦笑いした。


高座に戻り、3人は給仕からシャンパンのグラスを受け取り乾杯の言葉を口にする。

「アデライーデの健康に」

「アデライーデの幸せに」

「お二人の健康と長寿を」


軽くグラスを合わせ飲み干すと、その後は席で3人でおしゃべりをして過ごした。楽しくはあったが高座から見える王族や貴族達の皇后の解説は、下手なドラマよりスリリングだった。


嫁いだ後に、帝国の貴族から接触があった場合の参考にね。

でも、付き合いはしなくてもいいのよ。

その時は連絡をちょうだいねと

扇で口元を隠しつつ話すのだから、余計に怖い。


陛下はやれやれといった感じであったが、最後にダンスをした時に

「なにか辛いことがあったら、我慢せずいつでも父を頼ってほしい」と言ってきたときの瞳はかなり真剣であった。


帝国の貴族の動きは内政問題ですが、お父様のそのお言葉は外交問題になりませんかね…そう思いつつも

「ないと思いますが、あれば必ず…」と約束せざるを得なかった。



王宮主催のパーティでは、両陛下は開催から2時間程度で中座される。

あとは貴族達の社交の場が夜半まで続く。

若い者たちは貴重な出会いの場でもあるので大抵は夜半まで残るが、年寄りは陛下の中座後しばらくして三々五々に王宮を後にする。



本日も陛下から中座の挨拶があり、お二人はアデライーデ様と共に広間を後にされた。



そしてこの日、早々に退出したグランドールを除いて夜半まで誰ひとり王宮から退出しなかった。

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