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【2巻も準備中!】転生皇女はセカンドライフを画策する  作者:


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288 オートミールと現実


初秋の会議で、庶民から祐筆文官を採用するのはどうかというタクシスの提案に、会議に出席していた貴族達の反応は鈍く、事前に話をしておいたタクシスの派閥の貴族達も両手(もろて)を上げて賛成した者はいなかった。


「貴族しか扱ってこなかった仕事を庶民にさせるなどとんでもない。貴族の矜持にかかわる」という意味をオブラートに包んだ貴族言葉に変えて強固な反対をした貴族達を、タクシスはあえて説得はしなかった。



--やれるものならやってみればいいさ。その矜持とやらがどれ程のものか見せてもらおうか。



黒い笑顔で、タクシスは小声で呟き会議場をあとにした。


いずれ文官達の仕事が破綻する事はわかっている。

炭酸水だけで仕事は激増した。今後クリスタルガラスやシャンデリア等を本格的に取り扱うようになれば、今の文官数では絶対的に人が足りなくなる。


人だけでなく業務のやり方も旧態依然である。今までのやり方で回っていたのはバルクが貧しく業務が少なかったからだ。


しかし、これからは違う。

取り扱う商材が増え公共工事が増え、帝国外との貿易も本格的に始まるのだ。業務のやり方も抜本的に変えなければならない。アルヘルムの了解はとってあるが、貴族達からの大きな反発があるのは簡単に予想できた。


宰相の権限で、庶民の文官を大量に入れる事は簡単だ。

しかし、その後せっかく入れた者達が反対派に潰されるのはかなわない。



まずは、どんなに頑張っても無理(オーバーワーク)だという現実を味わわせないとな。あとは望めば手に入る憧れをつくって、鼻先にぶら下げてやるべきだな。



タクシスは、メラニア以外にはサディストなのだ。



会議室を後にするタクシスは、そんなことを考えながら黒い笑顔のまま執務室に向かっていた。




バルクに限らず、こちらの世界では書類はすべて手書きである。グスタフはタクシスの助言通り、まずは頻繁に使う必要書類の定型文を作った。


臨時祐筆文官には人間コピー機のごとく定形書類をばんばん書いてもらい、それぞれの案件に必要な納入先輸出先、出荷数は従来の文官が記入。計算は臨時の計算文官がして、確認を従来の文官がすると言う流れを作ったら、仕事が捗る捗る。


同じ人数の別部署の倍の仕事量をこなし、定時に帰る食材課は他部署の妬みと羨望の的となったが、変な横槍が入らないよう、そこはタクシスが睨みを利かせていた。


グスタフが魚醤担当になったのは偶然だが、ホフマン家がタクシスの派閥であったのが幸いだった。アデライーデが関わる事業であれば、根幹の部分は管理下に置いておかねばならない。


グスタフが魚醤担当となり、部下が必要となった時点でタクシスが手を回し、グスタフの配下はすべて派閥の頭の柔軟な4男5男で固めさせていた。


おかげで、臨時の庶民文官を投入しても課内で問題はなかった。むしろ若い女性祐筆文官がいるせいか、目の回るような忙しさの中でも和やかな雰囲気すらあった。


(ほど)なくして食材課はホケミ粉の課も吸収、人員を再編し臨時課員も倍増したがほぼ定時帰りは変わらなかった。




「アイツ(食材課の男性文官)ら、楽しそうだな」

文官専用の食堂の一角で声を落としながらも楽しそうに食事をとる男女数人を、徹夜明けの昼食をとる資材課の若い文官が横目で見ながら、オートミールを口にした。

徹夜明けにうっかり食べすぎると、眠くて午後から仕事にならないからだ。



「あ? 食材課の奴らか。ほっとけよ、関わるなと言われてるだろ」

「でもさ、アイツら俺たちより仕事量多いはずなのに、ほぼ定時で帰れるんだぜ。ちゃんと毎日ベッドで寝られて、しかもあんなかわいい同僚とたまに飲みに行ったりするって…」


「言うなよ! そ…それ以上言うな。仕方ないだろ、俺達の派閥は庶民出身の文官は認めないって考えなんだからさ」

文官の同僚も、現実を見たくないのかオートミールをかきこみ始めた。



もぐもぐと咀嚼しながら、ちらっと横目で見ると自分好みの祐筆文官が目に入った。明るい茶髪をハーフアップにした色白で丸顔の可愛らしい娘だ。同僚の男性文官と楽しそうに笑っている。



--この前食材課から回ってきた書類。めちゃくちゃきれいで読みやすい字だったな。あの娘が書いたのかな。うちの課にも祐筆文官がいたらな。こんな残業続きじゃなくなって、ちゃんと寮に帰れて普通の格好ができて声をかけられるのに。



派閥からのお達しで臨時文官達に関わるなと釘を刺されている。しかし、そのお達しがなくとも徹夜続きでクマがあるし、自分自身でもわかるくらい臭うような状態で女の子に声をかけるなんて、恥ずかしくてできない。


食材課の男性文官は、当然毎日家や寮に帰り十分な睡眠とっているからクマもなく清潔な格好をしている。声をかけたら顔には出さずとも、きっと食材課の文官達と比べられる。



--くぅ…。俺だって。こんな残業続きじゃなけりゃ…。


食材課の男性文官を羨ましげに見つめながら、資材課の文官達はオートミールを噛み締めていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] グスタフさんとこ(食材課)に、他の課から圧力が掛からなかったのはそういう理由があったんですね。 でもそうなると、次に不満の目が向けられるのは結果として仕事を増やすことになった正妃(アデライー…
[良い点] タクシス様、流石です! 『、、、あとは望めば手に入る憧れをつくって、鼻先にぶら下げてやるべきだな。』の部分、腹黒さ満載でキュンキュンしました。 [一言] 更新再開ありがとうございます。一日…
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