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【2巻も準備中!】転生皇女はセカンドライフを画策する  作者:


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276 スパイスとワイン


「それで、ふたりが結婚する事へのお許しはいただけたのね?」

「ええ、ノイラート卿もホッとしたような穏やかなお顔で、お二人を祝福をされてましたわ」


--良かったわ。一般家庭でも結婚する時にお互いの家の格とかお金持ちとかどうとか、前の世界でもあったものね。この世界みたいに身分がはっきりと決められている世界では『爵位』はより重いだろうから心配していたけど、お許しがもらえて良かったわ。でも、2つの爵位…。コーエンは驚いたでしょうね。



夜食のオニオングラタンスープを冷ましながら、アデライーデは皆の話をじっと聞いていた。平民だったコーエンにとって名誉男爵になっただけでも夢のような事だっただろうに、突然帝国の男爵位も…などと言われて混乱していただろうなと思い、ポツリと言葉を漏らした。



「2つの国の爵位を持てるって…、そんな特例があったのね」

「はい、家門の存続に関わりますので。でも、アデライーデ様も帝国の継承権をお持ちですわよ」

「え?私も?」



たっぷりとコンソメスープを吸ったパンを慌てて飲み込んでマリアに聞き返すと、マリアは真面目な顔をして説明を続けた。



「もちろんでございます。どの国でも嫡子の男子が優先ですが、女子にも継承権がございます。アデライーデ様の場合、帝国には皇太子殿下を始めとして上位の方は何人もいらっしゃいますし、バルクにお輿入れされたので順位はかなり下がりますが、ちゃんとお持ちでございますよ」

「それって、嫁いだり婿入りなんかで返上するって事はないの?」


「あまり聞いた事はございませんね。何かあったときに後継者候補がたくさんいる方が家門としても安心ですし、国としても後継者がいなくては任せていた領地を巡って争いが起きる事もございますので、簡単には認められないと聞いております」

どうも、爵位というものは簡単に返上もできないものらしい。アデライーデがまかり間違って帝国の女帝になる可能性はかなり低いが、生涯ついてまわるようである。



「そうなの…。で、コーエンはノイラートの爵位を受け継ぐの?」

「コーエン様は名誉男爵になっただけでも恐れ多いのに、帝国の貴族の作法も知識もなく昨日まで他国の平民であった自分にノイラートの爵位を継ぐ事は難しいのではないかとおっしゃってご遠慮されたのですが…」



貴族の家門。それを受け継ぐ事の重さを考えコーエンが簡単に了承せず遠慮した事に、ノイラート卿は満足感を覚えていた。



「爵位の譲渡は、いずれ私が天に召される時にと思っている。いやなに、私もすぐに召されるわけではないからな。あと10年や20年は生きるつもりだ。それまでゆっくりと学べば良いのだよ」


ノイラート卿は、何も今日明日にという話ではないとコーエンに告げた。

領地がある家門に比べ、宮廷貴族の家門であるノイラートは貴族の中でも気楽な方だが、それでも嫡子は爵位を継ぐために長い時間をかけ少しずつ当主から色々なことを学んでゆく。


幸いにも自分はこれからバルクに住み、帝国とバルクを行き来するだろう。その間に少しずつ慣れてゆけば良い。コーエンだけでなく孫が生まれたら帝国貴族として自分が教えられる事は孫にも教えようと、口にした。



「それに数日前にタクシス公爵様よりアメリーの結婚が整った場合は公平性を期すために公爵家としては動けぬが、夫人が最大の支援をしてくださるとお話を頂いているんだ」

「まぁ…メラニア様が?」


今も父とふたりで王都のタクシスの別邸に客分として滞在してる。

その間に何度もメラニアは別邸を訪れ、自分だけでなく父とも美術談義を楽しまれていた。話の内容も多岐にわたりアメリーもメラニアの知識の深さに驚いていた。


「うむ。あのお方は本当に芸術に深い造詣と理解をお持ちだな。海の絵を描くのであればと夫人の私邸をお貸しくださるとのことだ。2階のベランダからも海が見えて素晴らしい景色らしい。ちょうど港町とアデライーデ様が住まう離宮の間くらいにあると聞いているよ」



代々宰相を排出しているタクシス家は、王族が休暇を過ごすそれぞれの離宮の近くに小さな別邸を構えている。しかし今回ノイラート卿に貸すのは結婚時にメラニアの実家から贈られたメラニアの私邸である。

無論、外観から内装まですべてメラニア好みの瀟洒な私邸だ。




「……そう仰っていただけるのであれば…。不肖の身ではございますが卿のご期待にそえるように精一杯精進いたします」



アメリーと結婚する為に、名誉男爵の叙爵は覚悟を決めて臨んでいた。

しかし、今の話では名誉男爵ではなく、正式な爵位。しかも帝国の男爵位をも兼ねるのである。


昨日まで一介の庶民であった自分にはかなり荷の重い事ではあるが、アメリーを慈しみ大事にしていた義父からの頼みでもあるのだ、どこまで期待に沿うことができるかわからないが、努力しようとコーエンは固く己に誓い、言葉を口にした。



「そう…。それでコーエンはいずれノイラートの爵位を受け継ぐかもしれないってことを受け入れたのね」

「ええ、コーエン様はお話を聞き終わったあとに、それはもうお覚悟を決めたお顔で慎重にお受けしておりましたわ」


「アメリー様も、もちろん手助けをされるとおっしゃってその場は和やかに終わりましたの」

「素敵でしたわ。愛する女性の為に家門を受け継ぐ宣言をなさったのですもの」

「ええ、その場にいた私達もどきどきしちゃいましたわ」



興奮冷めやらぬといったエミリア達は、夜食の後のグリューワインをアデライーデに差し出した。

グリューワインとは、小鍋で温めたワインにシナモンやジンジャーで香りをつけ、輪切りにしたオレンジやレモンを浮かべたホットワインの事である。寒い冬の夜に身体を温めるためによく飲まれるワインだ。


はちみつを少し入れて甘くしたグリューワインを口に含むと、ふわりとジンジャーとシナモンのスパイシーな香りが走り、ついでオレンジの酸味とはちみつの甘さが追いかけてくる。



「きっと、コーエンにとって今日はこのグリューワインのような1日だったはずだわ。刺激的で甘くて…。これから大変な事も多いだろうけど、きっとアメリーとふたりなら乗り越えて幸せになれるはずよね」



マリア達を下がらせたあと、パチパチと暖炉から薪が爆ぜる音を聞きつつコーエンとアメリーの幸せを祈って、アデライーデはグリューワインの入ったワイングラスを傾けた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] >帝国には皇太子殿下を始めとして上位の方は何人もいらっしゃいますし~…… 皇太子、居ましたっけ? アデライーデが嫁ぐ前の夜会で第一皇子と呼ばれていた人は居ましたけど、彼がそうなのでし…
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