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【2巻も準備中!】転生皇女はセカンドライフを画策する  作者:


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25 冷めた紅茶


「おお、グランドール殿。忙しいところ時間を捻出いただき申し訳ない」

(このわしを長く待たせおって…小姓上がりの若造が…)


宰相の応接室でたっぷり1時間は待たせられたダランベール侯爵は、そう心の中で毒づきながらもにこやかに挨拶をする。


グランドールは落ち着いた笑顔で「お待たせして申し訳ございません」と挨拶をし対面のソファに腰掛ける。


マルガレーテがお茶を入れ直して二人にサーブすると壁際に控えた。



「ところで本日はどのようなお話で?」

お茶を飲みながらグランドールが尋ねると、

「いや、アデライーデ様のおめでたい門出まであとわずかですしな。ぜひ陛下にお会いしてご挨拶をしたいのだが、その前にグランドール殿に陛下のご様子を伺いたくてな。久々のご再会で陛下もさぞお喜びであろうな」



(ふっ アデライーデ様をカトリーヌ様の身代りにした事への保身か)

グランドールは面会の打診があった時からあたりをつけていた侯爵のわかりやすい意図に思わず笑みがこぼれた。



その笑顔を図りながらダランベール侯爵は続ける。

「あの陛下が大事な閣議をすべて取りやめたくらいですからな。アデライーデ様を遠く嫁がせるのがお辛くなっているのでは?」



「いやいや、それはありませんな」

「無いと言うと?」

「アデライーデ様がバルク国にお輿入れされる事に変わりはございませんし、アデライーデ様がバルクに嫁ぐ事は陛下がお決めになったことです」



ティーカップをテーブルに置くとグランドールはダランベール侯爵に笑いながら言った。



「それに、この輿入れはアデライーデ様のお立場に相応しい縁組です。陛下もわかっておられるのでしょう。カトリーヌ様には長幼の順を飛ばしてしまい申し訳ないのですが、カトリーヌ様にはカトリーヌ様に相応しいご縁組を陛下はお望みです」


そう告げると、ダランベール侯爵は難しい顔をして

「いやはや、未だにご挨拶には叶いませんがお噂ではベアトリーチェ様に似てご聡明な姫君らしいですな。カトリーヌ様には荷が重いこのお輿入れもご立派に務められるでしょう」

「陛下は、カトリーヌ様にはより重要なご婚儀を期待されております」



そうグランドールが応えると無表情な中にも満足そうな様子を浮かばせダランベール侯爵は帰って行った。

陛下にはご挨拶のお伺いはしてみるが、お忙しく難しいかもしれないとの返しには仕方がないともったいぶって返事をしていたが、会わずともよいようだった。

彼の望んだ返事は、グランドールから受け取ったようだ。




ダランベールを送り出し、ソファに座り直していると新しいお茶を用意したマルガレーテがグランドールに声をかけた。



「ご機嫌伺いですか?」

「ああ、アデライーデ様が忘れられた皇女ではないと察したようだ。今回の婚儀で陛下の機嫌を損ねてないか気がかりだったんだろう」

「ご自身がアデライーデ様が嫁ぐようにと根回しされたのにですか」



マルガレーテは呆れたようにダランベールが出ていった扉を一瞥すると新しく入れたお茶をグランドールに差し出した。



「ダランベール侯爵自身は、自分の根回しでカトリーヌ様からアデライーデ様に変わったと思っているようだしな」



バルク国への輿入れは表向き戦での報奨としてであるが、実際は違う。

バルク国は港を持っている。



内陸国である帝国が、他の大陸への交易の足がかりとなるべき重要な意味を持つ輿入れなのだ。ゆえにバルク国が小国のうちに帝国に取り込みを狙っていた。



友好国として付き合えるかの大事な婚姻なのだが、第6皇女のカトリーヌもカトリーヌの母の実家のダランベール侯爵も現在のバルク国としてしか見ていないようで、輿入れを嫌い代わりにアデライーデをと裏で動いたのを帝国は知っていた。



「そうだな…カトリーヌ様ではな…。本人だけではなく後ろ盾も強欲すぎる。耄碌したのか先が見えぬようになったのは幸いだった」



アデライーデが輿入れとなれば、帝国には利益しかない。

母親の実家の後ろ盾が無いアデライーデが輿入れによってもたらす莫大な利益は全て帝国のものとなり、嫁いだ皇女の外戚の下手な介入もないからだ。



カトリーヌの性格から、帝国は国外に出すことを危惧していた。

しかし順位と年齢的にバルク国王との婚姻に見合う皇女は18才のカトリーヌしかおらず、内々に打診したところダランベール侯爵がアデライーデを推薦するような動きを見せたので放置しておいた。



無論、陛下もそれをご存知だ。



皇后と3人での会議の時にバルク国との縁組の話となった。

カトリーヌの性格は母親に似て虚栄心が強く激情家だ。

カトリーヌが今のままバルク国に嫁げば、いずれバルク国で問題を起こすのは火を見るより明らかだった。


何事かを起こす前に影に対処させるのもやむなしと思っていた皇后とグランドールに陛下は、「あれも私の子だ。あれを御せる相手に嫁がせる」と言われた。


そして陛下はバルク国の調査書を見ながら、アデライーデに嫁がせると2人に告げた。


「アデライーデには穏やかに暮らしてほしい。このまま帝国にいれば嫁ぎ先もなにかにつけ権力争いに巻き込まれるであろう。だが一国の王妃で帝国の後ろ盾があればそれも少なかろうと思う。

アルヘルム殿は帝国から降嫁した皇女を粗末に扱う人物とは思えぬしな」



「エルンスト…貴方それで良いの?嫁げばアデライーデとはほとんど会えなくなるのよ?」

「……アデライーデは私の事など覚えてはいないさ」

そう陛下は答えると陰った瞳で書類に目を落とした。



「エルンスト…」

「今まで静かな生活をしてきたんだ。できるだけ同じように静かに暮らせるようにしか私にはしてやれないんだよ」

「ね…一度あの子に会いに…」



皇后がアデライーデに会うように勧めるのを振り切るように

「いや… 良いんだ」と言うと他の議題を出してきた。






「せっかく親子の時が持てるようになったと言うのにな…」

先程の陛下とアデライーデの再会を間近で見ていたグランドールは冷めた紅茶を飲み干した。



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