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【2巻も準備中!】転生皇女はセカンドライフを画策する  作者:


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244 グスタフと出世



--すっかり忘れていたわ…。



夏の終わりから、離島の話や村まつりや豊穣祭のばたばたで、彼の事をすっかり忘れていたが、昨日のランチに唐揚げが久しぶりに出て彼の事を思い出したのである。



グスタフ・ホフマン。



そう…魚醤の彼である。

1ヶ月待っててと言っておいて、すでに3ヶ月程過ぎていたのだ。慌ててレナードに頼んで都合の良い日に離宮に来てほしいと使いを出したら、すぐにでもと返事が来たので今日にしてもらったのだ。やっぱり待っていたのかと申し訳無さにいっぱいになった。


同じ頃、レシピを渡して一樽作ってもらっていた魚醤の工房にも確認するとできているとの事だったので離宮に運んでもらうようにレナードにお願いをしておいた。




「アデライーデ様におかれましては、ごきげん麗しく。本日はお時間を作っていただきありがとうございます」

「………。えっと…初めまして?」



そう言って、離宮の広間サルーンでアデライーデ達を待っていた青年に間の抜けた挨拶をアデライーデが返すと、後ろからコホンとレナードの咳払いが聞こえた。



「アデライーデ様、グスタフ・ホフマン卿でございますよ」

「えぇ?!!」

せっかくレナードが小声でそっと教えてくれたのに、大きな声をマリアとふたりで出してしまった。



--だって、グスタフと言ったらぽっちゃりとした青年だったわよね?どう見たって違わない?



目の前にいる青年はスリムな身体でぱっちりとした二重の人懐っこい顔つきである。確かに言われてみれば巻毛のヘアスタイルはグスタフと同じだ。まじまじと見ているとグスタフと言われた青年は照れたように笑っている。



「あ、変わりましたから…。ちょっと、いえ随分と痩せたので知り合いからも驚かれます」



話を聞けば、調味料課に配置転換され1人課長となってすぐにオイルサーディンやオイルシュリンプも担当となり瓶の作成依頼やオイルサーディンの生産の調整。はたまたオイルサーディンの加工工房の増築や保育施設の新築など、王都とメーアブルグの工房を馬で駆けずり回って忙しく働いていたら、痩せたらしい。



「ごめんなさいね。大変だったわよね」

「いえ!幼い頃からずっと太っていて、動くのが億劫だったのですが仕事が楽しくて、気がついたら痩せてました。母も痩せるたびに喜んで服を仕立ててくれて、アデライーデ様には昇進と共に痩せる機会をつくって頂いたと感謝しております」


真新しい服を着慣れない様子で、グスタフははにかんで笑った。


グスタフは女3人姉妹の後に生まれた末っ子長男で、生まれた時から大事に育てられていた。特にやっとできた跡取りだと祖父母から危ない事はするなと過保護にされたせいでぽっちゃりになっていた。姉達からは痩せさえすれば素は良いのにと言われていたが、太ってしまっていたからグスタフ自身も運動や鍛錬を進んではしなかったのだ。


それがガラス瓶工房やメーアブルグの加工工房との話し合いに馬車移動では時間が足りなくて馬を駆けるうち、あれよあれよと言う間に痩せていった。


喜んだのは母や姉達ばかりではない。

幼い頃から好きなだけお菓子を与えていたから太ってしまい、見合いの肖像画を送っても色よい返事がないのは自分のせいだと気を病んでいた祖母はこれでひ孫を抱けると、痩せたグスタフの新しい肖像画を画家に頼まねばと母親と一緒に張り切りだした。


父親と祖父は、男爵家は年に数度の夜会でしか王族にお会いできないのに、グスタフが王宮務めを始めて数年で正妃様に直をお目通りが出来る役職へ異例の出世をした事を、涙を流して喜んでいた。


グスタフは、押し付けられた仕事からの出世とは言えないままである。


ただグスタフは気が弱いだけではない。女3人の姉達に揉まれて人の機微(きび)には(さと)い。その貴族らしからぬ人当たりの良さと姉達仕込みの細やかな気配りで職人達と打ち解けた。打ち解け信頼され仕事を任せてもらえるとなると俄然張り切るのは職人達である。


仕事を与えられ保育施設まで作ってもらった女達も、朝早くから加工場を見回り困った事はないかとこまめに声をかけてくれるグスタフの為に一丸となって仕事の改善点を出して過密なスケジュールの出荷をこなしていった。


みるみる痩せていくグスタフを見た上司は、もしグスタフが過労で倒れでもしたら正妃様のお耳に入る。それはまずいと今年入ったばかりの新人を部下につけたので、3人の部下も従え小さいながらも調味料課は独立した部屋をもらった。


そうなると面白くないのは、(くだん)の諸先輩方だ。嫌な仕事を押し付けて高みの見物をしようと思っていたら、あっという間にグスタフは部下も部屋ももらって新人から「困難な仕事で頭角をあらわした先輩」と尊敬の目で見られているのだ。


板ガラス課と調味料課は仕事で絡む事もないので、仕事で横槍も入れられない。忙しく飛び回っているグスタフは当然遊ぶ暇もなく、(たか)ろうと思っても部下を従えているので声もかけられない。


しかも、もっと面白くない事にグスタフが痩せてきてからはその人懐っこい笑顔がかわいいと、王宮の女官達も婚約者のいないグスタフを次期出世頭として、目をつけ始めたのだ。


どこに行っても、グスタフと引き合わせてくれないかと女官達から声をかけられる。面白くなくてグスタフ目当てに声をかけてくる女官をひっかけて遊ぼうと誘っていたら、醜聞に目敏(めざと)い上司から「程々にな」と笑顔で釘を刺されたのでそれもできない。ぐぬぬと、王都の酒場でクダを巻くのが関の山であった。




知らぬは当のグスタフだけである。


皆様、私がこのお話を書き始めてちょうど1年となります。体調不良やスマホの故障を乗り越えて(数日前に先代スマホが突然お亡くなりになりました)ここまでこれたのも本当に本当に読んでくださり、感想を書いてくださる皆様のおかげです。


皆様にとって良い年の瀬になりますように。


1年の感謝を込めて。

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  グスタフの設定は長男と三男、どっちですか?  今回「グスタフは女3人姉妹の後に生まれた末っ子長男」とありますが<<164 押し付けられた仕事と改良>>では「グスタフ殿はホフマン男爵家…
[一言] ごめんなさい、私もグスタフの存在を忘れてました(笑) 先輩方に押し付けられた職務が、彼自身の人柄も相まって、(体型も含めて)いい方向に向かったのはホントによかったなと思いました。 今年1…
[一言] 年末陽子さんに会えて嬉しく思います。 来年も陽子さんの生活を垣間見れる事を楽しみにしておます。 作者様、良いお年をお迎えください。
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