24 祝いの品
結婚の挨拶からあっという間に日が流れ、明日は夕方からアデライーデの祝賀の席…つまり結婚披露宴の日だ。
相手は不在だが…
あの日陛下は長くアデライーデを抱きしめた後、小謁見の間の庭にアデライーデを誘いベアトリーチェの話をポツリポツリとしてくれた。
陽が傾く頃侍従長に声をかけられ陛下とは別れたが、自室に帰ってから号泣するマリアをなぜか慰めると言う事になった…
マリアが言うには、あの場に残ったマリアと数人の護衛の騎士達は全員もらい泣きをしていたそうだ。流石にグランドールと侍従長は表情を変えていなかったそうだが…
そして翌日から他の妃達や高位貴族達からの祝いの品が続々と届き始める。
それは、アデライーデの挨拶後に陛下が予定を急遽すべて取り止めたという噂が王宮を駆け巡ったからである。
陛下が今まで閣議を自分の為、まして子供たちのために取りやめたことなど一度もなかった。
その陛下が閣議をすべて取り止めにするくらいに、アデライーデは陛下にとって大事な存在だと言う認識が貴族達を動かした。
捨て置かれた妃。その娘の忘れられた皇女と軽んじ、ベアトリーチェが亡くなった時にも弔意の手紙や弔花も贈らなかった彼らは蒼白になった。
この上、アデライーデへの祝いの挨拶や品も贈らないとなると、陛下のご不興を買うかもしれない…と恐れての事だった。
アデライーデを王宮に引き取るように根回ししたダランベール侯爵は、ひどく焦っていた。
捨て置かれたと思っていたベアトリーチェに実はご寵愛があり、アデライーデは忘れられたのではなく、掌中の珠の如く大事にしていたのではないか…もしそうであればアデライーデを第6皇女の身代りにした事を陛下は心よく思ってないのかもしれない。そうであれば早急に手を打たないと…
ダランベール侯爵は、イライラと杖を突き侍従に宰相と約束を取るように指示を出した。
その頃、第6皇女の侍女達は控え部屋にこっそり集まり、声をひそめて相談をしていた。
侍女達はマリアがアデライーデ付きになったと知っていたが、「とりあえず荷物をもってこいと言われたから」と言いマリアが寮を出てからは会っていない。
「ねぇ、今マリアが王宮のどこにいるか知ってる?」
「知らないわ…」
「マリアも今から連れて行かれるからわからないって、言っていたわよ」
「「………」」
今ここで中途半端に報告しようものなら、どうにかしてマリアを探し出しアデライーデと会えるように算段をつけてこいと言われるに決まっている。
「ねぇ…そう言えばマリアって、最後のごあいさつの時に異動いたしますじゃなくてお暇いたしますって言っていたわよね?」
「ええ。確かにお暇いたしますって言っていたわ」
「アデライーデ様のところに異動になった事は、あの様子じゃ知らなそうよね」
「じゃ…報告しなくても良いよね」
侍女たちは、うなずき合い知らぬ存ぜぬで通すことに決めた。
「すごい量ですね…」
「ほんとね…」
マリアとアデライーデは、続々と届く祝いの品を苦笑いしながら見つめる。
陛下と会った後の掌を返したような貴族たちの振る舞いに、機微に敏いというか保身が強いと言うか…ここまであからさまだと笑うしかなかった。
貴族達は閣議の取り止めの知らせが入ってからすぐに、アデライーデに挨拶しようと手を尽くした。
ベアトリーチェへの弔意、結婚への祝賀の意、そしてなにより今までご挨拶が遅れていた事を取繕わねばならないがどうしても伝手は見つからなかった。
それもそのはず。
アデライーデが住む部屋もそうだが、マリア以外のアデライーデに関わる全ての使用人は影たちだからだ。
お掃除メイドからランドリーメイド、料理人、運搬人や庭師に至るまで王宮に配置されている影がすべてを行う事でアデライーデの情報は一切漏れなかった。
困り果てた貴族達は、宰相のグランドールに取り次ぎを頼むが「輿入れ前のお忙しい時ですので」と、けんもほろろに断られてしまう。
それならばせめて祝いの品を渡してほしいと、グランドールに託してきたのだ。
祝いの品は影達によって念入りに検分され、目録付きでやってくる。
マリアは目録帳作りに、アデライーデは返礼の手紙を書くだけで1日が終わってしまうほどであった。




