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【2巻も準備中!】転生皇女はセカンドライフを画策する  作者:


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233 豊穣祭と黄色の布


アデライーデは「正妃 アデライーデ様」と呼び出しの声を受け、その姿をベランダに現すとどーんと言う衝撃のような民たちの歓声を受けて進みだすはずの足が出ずに思わず立ち止まってしまった。





今日は豊穣祭である。


午前中に王宮で始まった豊穣祭は、アルヘルムを始めとしてバルク王家一同が集まり王宮の中にある霊廟を訪れ祖先にこの一年の報告と無事に過ごせた事を感謝する事から始まる。


その後、王宮内の教会で神に感謝の祈りを捧げ、昼食は今年取れた収穫の麦から作ったパンと去年のワインにチーズ、そして塩だけで味をつけた魚と肉を焼いた物が供される。


祖先と同じ物を口にして、祖先の苦労と恵みへの感謝を思い起こさせる為だという昼食の儀式だ。



「今年の麦は良い出来だな。パンを噛むと豊かな麦の味がする」



いつもの白いパンではなく、庶民が口にする黒いパンをちぎり噛み締めたアルヘルムが満足げにぽそりとつぶやいた。

確かにいつも王宮で食べるパンと違い、離宮の兵士達の食事に出てくるパンと同じ物がテーブルに並ぶ。


--ご先祖様と同じ物を食べて食べ物に感謝をするところは、少し日本のお盆に似ているわね。


どれも庶民が普段口にしているような…いや、今のバルクの庶民よりも質素で素朴な品々だ。しかし、その分それぞれの食材の味は濃く、これはこれで贅沢な食事ではないかと陽子さんは思いながら食べていた。


「義姉上、ワインだけでなく蜂蜜酒もございますよ」


子供たちは別の部屋で食事をとるので、結婚式以来久しぶりに王弟のゲオルグとも顔を合わせ、和やかに昼食の儀式は終わった。食後にアルヘルムから贈られたドレスを纏って準備が整った時に、支度部屋の扉が叩かれた。


メイドの一人が対応し、すぐにマリアに耳打ちするとアルヘルムの迎えが来たとアデライーデに告げられた。



「アデライーデ、用意はできたかい?」

「はい、今済んだところですわ」



深い蒼のバルク王としての式服を着たアルヘルムはいつもの2割増にハンサムに見える。


アルヘルムに贈られたオレンジ色の華やかなドレスは、アデライーデの白い肌を際立たせていた。ふんわりとした生地に細やかな花の刺繍がふんだんに刺されている見事なドレスは若いアデライーデによく似合っていて、まるでオレンジの花の精霊のようである。


胸元は開きすぎず、ウエストはキュッと締りふんわりとしたドレスは動くたびにお気に入りのオレンジの香りの香水を微かに感じさせていた。



「とてもよく似合っているよ。貴女には明るい色がよく似合うというマダムの目は確かだったね」

「ありがとうございます。とても素敵なドレスですわ」


「今日はこれからベランダで民たちに顔を見せ、王都を馬車で一周する。それが済んだら夜会だ。途中で疲れたら遠慮なく言うんだよ」


アルヘルムはそう言うと、アデライーデの額に軽くキスをした。


「ええ、大丈夫ですわ」

そう答えるとアルヘルムにエスコートされベランダの間に入って行くと、テレサやフィリップ達が出迎えてくれた。子供達もちゃんとした式服を着ている。フィリップとカールは髪を後ろに撫でつけているので、いつもより大人びて見えそれを言うと二人は嬉しそうにはしゃいでいた。


「さぁ、民たちに挨拶をしようか」

アルヘルムの言葉で、それまではしゃいでいた子供達も背筋を伸ばしベランダにむかうと、すでに外から歓声が聞こえていた。


最初にアルヘルムがベランダに出て広場に集まった民たちへ手を振ると、歓声はより一層大きくなる。続いてアデライーデの名が呼ばれると、歓声はピタリとやんだ。



--ドキドキするわ。人前に立つなんてどのくらいぶりかしら。


前世でも、地味に目立たない人生だったのだ。人前に出て目立つ事などほとんどしたことの無い陽子さんは緊張気味にその一歩を踏み出した。


マイヤー夫人に習ったとおり、アルヘルムの後ろを過ぎ自分の定位置まであと一歩というところで、広場から体を揺さぶるような歓声を受け、思わず足が止まってしまったのだ。


「うおおおお、お出ましだぞぉー!」

「アデライーデさまぁ!」

「我らが正妃様ー」


「黄金の正妃様!」

「バルクに祝福を!アデライーデ様に祝福を!」



人々は口々にアデライーデを讃えるだけでなく、バルク王家の色である青とアデライーデの髪の色である黄色い布を握りしめ手がちぎれんばかりに振っていた。


本当はアデライーデの母国フローリア帝国の色である赤紫の布を振りたかったのだが、赤紫の染料は高価で庶民では手が出なかったのだ。


そこでアデライーデの髪の色で黄金の色とも言える黄色いハンカチやスカーフをアデライーデを讃えるために振っているのだ。



アデライーデが嫁いできてからというものバルクの発展は目覚ましく、庶民達はそれが誰のおかげかという事を日々の生活から知っていた。


特に貧しい者達ほど、以前に比べ職にありつくことができ飢えることが無くなったのだ。娘を売ることもなく家族で囲める日々の食事の際は神への感謝と共にバルク国への…アデライーデへの感謝を唱える者も少なくない。


庶民が王族に接することができるのは年に一度の豊穣祭の時だけで、その時に庶民にできるのは声を出して祝福を願う事のみである。他になにかできないかと、誰が言い出したかもはや確かめようもないが「バルク国の色とアデライーデの色の布を振ろう。たくさん振れば正妃様に自分達の気持ちが伝わるはず」とこの日までに青と黄色の布が飛ぶように売れたのだ。



歓声に驚き動けなくなっていたアデライーデに気づいたアルヘルムは、手を差し出してアデライーデを前に一歩進ませた。



「さぁ、民たちに手を振って応えてやってくれないか?」

「ええ…」



アルヘルムに促され手を振ると、今まで以上の歓声が上がり広場は青と黄色の布がはためいた。

皆様、いかがお過ごしでしょうか。

筆者は先日2回目のワクチン接種に行ってきました。

見事に体調を崩しやっと復活です。


またポチポチですが更新しますのでお付き合いくだされば幸いです。(*´∀`*)

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― 新着の感想 ―
[一言] バルクの救世主アデライーデ(陽子さん)。 まさか、ここまで感謝されているとは陽子さんも思っていなかったでしょうね。 内心アワアワしているのがよく分かります。
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