181 謁見と贈り物
「フローリア帝国皇帝陛下、並びに皇后陛下にはご機嫌麗しくお喜び申し上げます。バルク国宰相ブルーノ・タクシス、両陛下にご挨拶できる栄誉を賜り恐悦至極にございます」
タクシスがそう挨拶をし、深く礼をするとメラニアも深くカーテシィをした。
「面をあげられよ」
グランドールが声をかけると、2人は一拍おいてゆっくりと頭を上げた。
「久しいの、戦勝の儀以来か」
「はい、約1年ぶりにご尊顔を拝謁いたします」
「時が経つのは早いものよ」
「陛下。本日タクシス殿は帝都にて新たなバルクの商会を広げられる事へのご挨拶に参上されております」
すでに店を出すと決めた時に、帝国には使者をたて挨拶も許可も得ている。
「本日は御元帝都にて、我がバルクの特産物を商う許可を頂いたことへのお礼に参上いたしました」
「うむ、励むがよい」
「ありがたきお言葉、我が王も正妃アデライーデ様も両陛下の御心に感謝されております。そして感謝の気持ちとして我が王と正妃様より両陛下への贈り物を持参致しました。お納めいただけますでしょうか」
「ほぅ。2人からのか」
エルンストが頷くと、タクシスは従者に持たせていた小剣が入っているような大きさの見事な細工が彫られた木箱に目をやる。
グランドールが目配せをすると、侍従の一人がそれを受け取り、別の侍従が蓋を開けた。
侍従がどのようにしたらよいか戸惑う素振りをみせたので、タクシスが私が披露しても良いかと尋ね、木箱に近づくとじゃらり…と持ち上げた。
綺羅綺羅と光を纏ったいくつもの大粒のクリスタルガラスが、金の細い鎖で繋がったサンキャッチャー。
謁見室の窓から入る光を受け、揺れるたびに光を放つそれは室内に光を撒き散らしていた。
「こちらは、バルクのクリスタルガラスで造った飾り物でございます。アデライーデ様よりバルクのガラスを使いこの様に作れとの思し召しで職人が作りました。鳥かごを吊るす台に付け窓際に置いてお楽しみください」
予め用意させておいたバンキングスタンドにタクシスがサンキャッチャーを吊るすと、許しを得て窓際に置かせた。
「見事だな。ガラスとは思えぬ」
「ええ…とても美しいわ」
サンキャッチャーは窓際でより強く光を纏い揺らめいていた。
「これは何と言うものか」
「『太陽を掴むもの』サンキャッチャーでございます」
タクシスが帝国に行くと聞いて、アデライーデが折角クリスタルガラスが出来たのだから、陛下達に何か贈りたいと言い「シャンデリアは作るのに時間がかかるけど、これなら間に合うのでは?それに場所も取らないし」と作らせたのだ。
「アデライーデがバルクのガラスで造らせたか…。アデライーデはアルヘルム殿とバルクを気に入っているようだな」
エルンストが満足げに笑うと、タクシスは応えた。
「お二人は大変仲睦まじくお過ごしでございます。またアデライーデ様がバルクにお輿入れいただいてより、バルクは陽の登る勢いで活気にあふれております。太陽の如き恵みをもたらす御方をバルクにと思し召しくだされた陛下に心よりの感謝と、帝国への永久に変わらぬ忠誠を」
「うむ。アルヘルム殿に私からも感謝していたと伝えてくれ。大儀であったな、歓迎の晩餐まで寛ぐがよい」
「ありがたき幸せでございます」
タクシスがそう礼を述べると、エルンストとローザリンデは謁見の間を後にした。
2人が退出するまで深く頭を下げ見送ると、グランドールがタクシスに声をかけた。
「遠路遥々、お疲れであろう」
「ありがとうございます。以前より道が良くなり然程ではございませんでした」
「何よりですな。皇后陛下がおふたりにぜひお茶をとのことで部屋を用意している。案内させよう」
グランドールはそう言うと指示を受けた侍従に案内され、少し離れた貴賓室に通された。
すぐに、ローザリンデが貴賓室に入ってきて2人に椅子をすすめるとお茶が振る舞われた。
「気楽にね。公務ではないお茶の時間なのだから」
ローザリンデはそう言うが、皇后を前にして気楽もなにもないとタクシスは思うが笑顔を作った。
「アデライーデは元気にしているのかしら?」
「はい、正妃様におかれましては日々恙無くお過ごしでございます」
「離宮での暮らしを楽しんでいるのかしら」
晩餐までの間、タクシスはローザリンデから離宮でのアデライーデの暮らしぶりを聞かれ続けた。