177 お小言と海岸
「ここから見えるあの島が、今整備中の島なのだよ」
「もう、船が停泊しているのですね」
アルヘルムに連れられ、メーアブルグから少し離れた砂浜近くの馬上から今整備中の島を見ていた。
昨日アデライーデにキスをしたら、彼女は少しの間気を失った…。
どうも緊張して、キスの間息を止めていたらしい。
すぐに意識を取り戻し、少し話をして早めに自室に戻らせたがその後、レナードから説教を食らった。
「アルヘルム様。アデライーデ様はしっかりなさっていらっしゃるとは言えまだお若くいらっしゃいます。自制なさいませ」
……中身はお若くはありませんが…。
「いや…軽く唇に触れただけだぞ」
大人のキスはしていない。自制心は持っている。だからちょっと長くなっただけだと思ったがアルヘルムは黙っていた。
「確かにご結婚はされておりますが、アデライーデ様はまだ成年前でございます。アルヘルム様には自制心を強く持っていただかないと。アルヘルム様の方がお年は上でいらっしゃいますのですから」
「……」
……それも色々違うが、中の人が恋愛ごとに慣れていないのは否めない。
「昔から、悪戯心がおありでしたが…………」
そこからなぜか、昔城を抜け出して遊びに出ていた事をチクチク言われた…。
解せぬ…。
レナードの嫌味を交えた説教を流しながら聞き、解せぬがわかったと言って早々に切り上げさせ昨晩は離宮に泊まった。
今日は馬で整備中の島を2人で眺めに来たのだ。
島の整備も進んでいるが、まだアデライーデに見せても良いようには進んでいない。メーアブルグの近くの浜まできて馬を降り護衛騎士達に馬を預けると、2人で浜を散歩しながら島の話をしていた。
アデライーデは、波打ち際まで海に近寄り無邪気に楽しんでいた。
「あれはなにをしているんですの?」
「あぁ、貝を取っているんだね。あとは子供たちが海藻をとって遊んでいるのかな」
遠くでおばあさんが子供たちを連れて浜にしゃがんでいるのを見て何をしているのかと聞くと、アルヘルムが教えてくれた。
「海藻は食べないんですか」
「食べるとは聞いたことはないね」
「そうですか…」
−−美味しいのに。でも海藻はどの海辺にもあるけど、食べるのはアジアの一部の国だけだったわよね。
海岸の散歩も終わり、離宮に戻るために馬に乗ってしばらくした時にアルヘルムがアデライーデに声をかけた。
「アデライーデ…、昨日は大丈夫だったかい?」
「昨日…?……!」
−−あぁ、アレね…。えーと。はい…まぁ…。
「だ…大丈夫でしたわ」
「ちょっと長すぎたかと思ってね」
−−それはいったい何基準の長さなの?
1人で心の中でツッコミつつ、にこりと笑うとアルヘルムはホッとしたような顔をした。
「慣れない貴女に、性急過ぎたのではと言われてね」
−−誰に?!
きっとレナードに違いないと思ったが、聞けなかった。
「まぁ…気をつけよう。すまなかった」
「いえ…謝られるほどではありませんわ」
「……、そうなのかい」
「ええ…まぁ…、でもお昼間からこの話は苦手ですわ」
真っ赤になって答えるアデライーデを見て、アルヘルムは苦笑する。幼い妻は腕の中にいるのになと思いむくむくと悪戯心が湧いてくる。
「じゃ、夜ならいいのかい?」
「!」
驚いて見上げアルヘルムと目が合うと、アルヘルムはいたずらっ子の目をしてアデライーデを覗き込んでいた。
「…からかっていらっしゃるのね」
拗ねて、ぷいっと横を向くアデライーデに笑いをこらえて「怒らないで」とアルヘルムは頬に手を添えて自分の方を向かせ、軽く唇をあわせた後、すぐに額に長いキスをした。
「…気をつけるのではなかったのですか?」
「慣れも必要だよ。少しずつだな」
そう言ってアデライーデに微笑むと、しっかりとアデライーデを抱きしめて馬を走らせた。