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170 商会代行と理想図


帝国のアリシア商会には、アルヘルムのオイルサーディンの試食から4日後には、早馬でタクシスからの分厚い指示書が届いていた。

秋から売り出す予定のホケミ粉を使った菓子と軽食を出すカフェを作るので、近くのカフェを買い取れとあった。


そして貴族女性好みの内装で整えろ、食器を揃えろと言う指示はわかる。しかし、その指示の中でも異色だったのはレストルームがとても広く取られていた「理想図」と言う絵だった。


元々ふんわりと広がったドレスを着て貴婦人が侍女を連れてレストルームを利用する為、男性用のそれより広めに作られているが、レストルームに入る前に化粧直しの部屋が続いて描かれていた。


化粧直しの部屋は、小型の化粧テーブルと椅子が3セットとソファが1つ置かれ専任のメイドが、1人つけられると書き込みがある。壁紙の柄や色の指定。使う鏡の大きさや指定。燭台の指定。カーテンやソファも詳細な挿し絵で描かれていた。



そう…その理想図はアデライーデを始めマリア、アメリーと3人のメイド達…ミア、エマ、エミリアの理想がたっぷり詰め込まれていたのだ。



オイルサーディンの瓶詰めについてアルヘルムと手紙のやり取りをしていた時に、アルヘルムから帝国でもホケミ粉を売り出したいと1行書かれていたのを読んで、アデライーデが「それなら試食できる方がいいわよね。説明されるより実際に食べてもらった方がわかりやすいわ」の一言が発端になり、それはもう…みんなで盛り上がった。



どんなに美味しい素敵なカフェに行っても、レストルームでがっかりする事は多いのだ。どうしても料理人や菓子職人は男性で、大工も男性なのだから店の内装にはこだわっても、女性用のレストルームのそこまで細かいところまで気が回らないのは仕方がないことかもしれない。


話が盛り上がって来た時に、アメリーがスケッチブックを取り出し理想的なレストルームを描き始め、みんなで意見を出しあってわいわい言いながらつくったのだ。


流石に帝国であちこちの貴族の屋敷に出入りをしているアメリーの描くスケッチはリアルだった。



「でも、アメリー。これ帝国でお願いして造ってもらえるかしら」

「私のお友達で、インテリアにとても造詣の深い方がいるのです。彼女に相談すれば取り揃えてくれるはずですわ」

「そう?」


「ええ、実はこう言うお絵描き会って初めてではないんですのよ」

アメリーは、笑いながら色鉛筆を走らせていた。



何でも学院時代から絵の好きなお友達同士でスケッチブックを持ち寄って、理想の男性や家やお庭なんかを書きあって楽しんでいたと言う。



「それでアメリー様、サラサラと描かれていたのですね」

エミリアが感心したように、スケッチブックを眺めていた。


「壁紙をどんな風にしようかとか、ここに小さな椅子があれば良いとか、ティーカップはどのようなものが良いかとか考えるだけで楽しいですものね」


「でも、その方に急にお話して驚かれないかしら」

「本当にカフェを作られるのでしたら、是非参加したいと彼女なら言うはずですわ。もし何かあれば協力して欲しいとお手紙を出しておきましょうか?」


「そうね…。もし本当にそうなった時にはお願いしたいわ。アルヘルム様にもお話しておくし、私からもその方にお手紙を書くわ」

「彼女、きっと驚きますわよ。アデライーデ様からのお手紙をいただけるなんて」

「あら、お願いするのだから当然よ」



そんな気軽な会話で作られた理想図である。

作った方は気軽にわいわい楽しくだろうが、それを造れと言われた方はたまったものではない。



帝国の商会代行は頭を抱えていた。


元々代行は、輸出入の手続きと販売先への契約や搬送を手配する事務官だ。確かに秋からホケミ粉と言う粉ものを扱うとは聞いていた。しかし事務所や倉庫の手配ならお手のものだがカフェの出店なんかしたことがない。



それに自分も男爵の4男であるが、貴族女性好みのものなどさっぱりわからない。わかっていたらとっくに結婚していたはずだと、あさっての方向を向いた八つ当たりをしながら指示書を机に乱暴に置いた。



描かれてある理想図の良さもさっぱりわからない。無駄に広いだけじゃないのか…。しかし、宰相からは急げと書いてある。額に手をあて、大きなため息をつきながら椅子に深くもたれかかった。


まずは店舗を探すべきだが、どうするべきか…。

とりあえずこの商会の建物を借りた紹介屋に話をするべきだろうと、部下に紹介屋に会うために話に行かせた。


改めて指示書をじっくり読んでいると、内装に困った時にはこの女性を訪ねるようにと添えられた1文を見つけた。



「誰だ…」

そこにはソフィー・ミュラーと言う女性の名前が書いてあった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「お願いするのだから手紙を書くのは当然」 陽子さんは自分の直筆が受け取った相手にどれだけインパクトを与えるか、ほとんど自覚してなさそう。 今さらですが、彼女の気さくさに好感を覚えるとともに…
[一言] 初めてのリモートワークですね。 上手くいくといいのですが……。
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