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167 見学と大きなそろばん


「おはようございます」


翌日、朝食前にアメリーが離宮にやって来た。

アメリーは村の宿屋…つまり食堂の2階に泊まっている。離宮に泊まってもらっても良かったが、レナードが宿泊は王族だけだとの事で宿をとってもらった。


宿にも、もちろん朝食は付いているがレシピの挿し絵を描いてもらうために食事は全て離宮でとることとなったのだ。


ちょっと遅めの軽い朝食は、アルヘルムにも出したじゃが芋とベーコンをソテーして入れた小さめのパンケーキに小さな卵で作ったポーチドエッグを添えてもらった。

サラダには小エビとハーブを使い、スープにはきゅうりの冷製スープ。生クリームが少し入っているので滑らかな口当たりでとても美味しい。


「きゅうりのスープも珍しいですが、このパンケーキもとても美味しいですわね…。ホクホクのじゃが芋に塩味がきいたベーコンとほんのり甘い生地…。それにポーチドエッグの黄身が良いソースになって…美味しゅうございます」



………何処かで聞いたような、美食評論家の様なコメントを頂いた。



「このホケミ粉でね…あ、ホケミ粉って言うのはホットケーキミックス粉の略なのね。簡単に庶民でもふわふわのホットケーキがこのホケミ粉と卵とミルクだけでできるように秋には売り出したいの」

「材料はそれだけですの?」


「そうよ。それに他の料理用のホケミ粉もアルトに作ってもらっているわ。文字の読めない人も多いから絵でわかりやすいレシピを作りたいの」

「そうなのですね」



リトルスクールが一応あるとは言え、国民全員が文字を読める訳ではない。貧しい家ではリトルスクールに通わせず家の仕事をさせる事も多いと聞くから、わかりやすいイラスト入りのレシピを作りたかったのだ。


うんうんと頷きながらアデライーデの話を聞いて、アメリーは、朝食を食べ進めていた。



朝食が済むとアデライーデはお忍び用の服に着替えマリアと3人で日傘をさし散歩がてら村に向う。


アメリーは前回スケッチブックの作成のために何度も通った道にあった炭酸水工房が立派になったのを眺め、宿の朝食が賑やかだった理由を知った。


アメリーは、食堂で朝食をとらない代わりにお茶を飲んで離宮に来ていた。食堂は朝早くから泊まりの庭師や炭酸水工房で働く若者、荷馬車の御者達がにぎやかに食事をしていたのを思い出していた。



――ほんの数ヶ月前に泊まったときは、庭師のおじいさん達しかいなかったのに…。


「アメリー様、賑やかでございましょう?帝国で人気になっている炭酸水はここから運ばれるのですわ」

「本当に…朝から活気がありますわね。数ヶ月でこの様になるなんて」

「これも皇后様のお陰なの。感謝の言葉しかないわ」



皇后様に感謝をしつつ歩いているとすぐに村に入った。

出会う村人と挨拶をしながらリトルスクールに行くと、入り口で子供たちに囲まれた。


「アリシア様、今日はどうしたの」

「今日はみんなのそろばんの授業を見学に来たのよ」

「見学?」

「そうよ。そろばんの教科書を作ってくれる帝国から来た絵の上手な先生をお連れしたのよ」

「絵の先生なの?!」

「すげー!絵の先生って初めて会った!」



「アデライーデ様…」

アメリーは突然の紹介に驚いていたが、そう紹介されて「よろしくね」と子供たちに挨拶をした。


子供がちょっぴり苦手なアメリーは、引きつりつつも笑顔を出す。アメリーは子供の頃は引っ込み思案な大人しい子で絵を描くのが好きな女の子だった。


小柄で赤毛のアメリーはそのせいでよく学院の男の子達に「そばかす人参が絵を描いている」とからかわれていて、男の子の集団にはトラウマがある。年頃になっても自分より大柄な男性に苦手意識が残っていた。


絵を描くのも好きだが、この年まで結婚を避けてきたのはそんな理由もあった。見学だと聞いていたから授業を後ろからそっと見るのかと思ったが、囲まれるとは思っていなかったのだ。


「正妃様、リトルスクールへようこそ」

ダボアがリトルスクールである彼の自宅の玄関から出てきて恭しく挨拶をした。


「急なお願いでごめんなさいね」

「とんでもないことです。子供たちも喜びますので、いつでもどうぞ」


ダボアに招かれてリトルスクールに入ると、玄関を入ってすぐのリビングルームは小さな教室という感じで、壁には子供向けの本が並んだ本棚と移動式の黒板と長テーブルが4つ並んでいた。


部屋の隅には小さなソファが置かれている。



真新しいソファカバーが掛けられたソファを勧められ、3人はすぐに始まった授業を見学し始めた。


ダボアは教卓の上に教師用の特大サイズのそろばんを持ち出し、小さな子達のために繰り上がり繰り下がりのやり方をやって見せてから1から100までの足し算をさせた。


小さい子はもっと少ない数までだが、大きな子は100までだ。


それが終わると習熟度にあわせた計算の問題が書かれた紙を渡すと、子供たちは各自計算した結果を石版に書いてダボアに持っていく。


日本で有名な〇〇式と言われる教え方だ。

意外にも初めてそろばんをリトルスクールでも使ってほしいと持ち込んだときにダボアがそうやって教えていたのを見て驚いたのを覚えている。


「仕事の時と同じですので…」とダボアは笑ってそう言っていた。



子供らしく賑やかな授業の間、アメリーは持ってきたスケッチブックに忙しく色鉛筆を走らせていた。

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