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145 魚醤とフライドポテト



「アデライーデ様、こちらでございます」


今日はアルトとマリアと一緒に久しぶりにメーアブルグにやってきていた。


昨日魚醤があると聞いて、直ぐに手に入れたいと言ったらアルトが取り扱っている店を知っていると聞いたので連れてきてもらったのだ。


案内された店は市場の端にある小さな店だった。お忍びなのでアルトが前に立って店主に魚醤が欲しいというと店主は店の奥からいくつかの小瓶を出してきた。


何でも素材にする魚でいくつか種類があると言う。どれが良いかと問われアルトが全部見せて欲しいと言うと、店主の口が途端に滑らかになった。



「お好きなんですねぇ。魚醤は好みがあってねぇ。癖があるけど好きな人は好きなんですよねぇ」



店主は愛想よくそう言って小瓶を3本カウンターに並べた。

「こいつは、色んな魚をもとに作っているらしくって1番癖が強いやつ。これは鰯だけで作ったやつで魚醤と言えばこれが1番知られてる、そしてこれが最近できた海老から作った魚醤ですよ」



カウンターに並べられた魚醤は、どれも透明な瓶に入っていて色の濃淡はあれど見た目は完璧なお醤油である。


アデライーデが小声で「全部欲しい」とお願いすると、アルトは店主に全部貰うと言ってくれた。ホクホク顔で持ってきたカゴに詰めてくれ丁寧に「ありがとうございます」と見送ってくれた。



目的の物を手に入れたので、あとは前回回れなかったメーアブルグの市場に行くことにした。料理人のアルトが行く屋台はどれも新鮮な食材を扱っている店ばかりで見ていて楽しい。魚は前世で見慣れた魚が多く市場では塩漬けや酢漬けでも売られていた。


焼き魚も売られていたが、あれは家に持って帰って食べるもので外で女性が食べるのはちょっとおすすめできませんとアルトに止められた。確かにレナードが見たら取り上げられるかもしれない。



魚を外で食べるのでしたら魚のサンドイッチがありますよとサンドイッチの屋台に連れて行ってもらうと、焼いた魚と酢漬けの魚を挟んだサンドイッチがあると言う。


アデライーデは両方を頼みアルトと半分ずつ食べる事にし、マリアは肉のサンドイッチを頼んでいた。果実水も一緒に買って市場の横のテーブルで包みを広げると、本当にシンプルに塩で焼いただけの魚が挟んであるサンドイッチだがこれはこれで美味しい。酢漬けも程よく漬かっている。



――一緒にマッシュポテトやキャベツを挟めばもっと美味しいのに。



アルトの買ってきてくれたサンドイッチを食べ終えて、前回回れなかった商店街の方に足を向けてみることにして歩き始めたところで前から歩いてきていたクリシェン院長に出くわした。



「これは…正妃さ…」

「しぃ〜、ここではアリシアと呼んでください」

「おお…これは失礼を。お忍び中でございましたな」



クリシェン院長はニコニコとしながらそう言うとアデライーデにお辞儀をした。


「アリシア様にはお礼に伺おうとかと思っていたところでした」

「お礼ですか?」

「ええ、フライヤーを寄付していただき卒院した孤児達が広場の方で屋台を出したところ、とても売れ行きがよくお陰様で生活ができるようになりました」



クリシェン院長は感謝をアデライーデに告げた。

まずはご覧いただけますでしょうかと広場の方に行くと、行列の出来て賑わっている屋台があった。見ればフライドポテトを揚げているようで揚げても揚げても人が並んでいるようだ。


働くのは若者だけでなく、少し年上の子供を背負った女性もいた。聞けば彼女は孤児院の出身ではないが、最近漁師の夫が亡くなり働く先が無いとクリシェン院長に相談してここで働いていると言う。



「アデライーデ様のお慈悲で、日々の糧を得ることが出来感謝の言葉もありません」

「いえ…、そんな」


--ここまで感謝されると、はじめは自分が食べたかっただけで作ってもらったなんて言えないわ…


フライヤーも元はと言えば、離宮の賄いで人気が出すぎアルト達の負担を軽くする為に頼んで作ってもらったのがきっかけだ。




「炭酸水の工房でも、とても良い条件で住み込みでお雇いいただきありがとうございます。休みの日に孤児院に戻ってくると分けてもらった炭酸水でレモネードを作ってくれまして、小さい子達も喜んでおります」



孤児たちは休みの日に、給金で買った炭酸水を土産にメーアブルグの孤児院に戻り皆に飲ませているらしい。村では気軽に飲めるが炭酸水はまだ輸出用とバルク国内の貴族や裕福な一部の庶民の口にしか入らない高級品なのだ。


立ち話もなんだと言うので、近くのガーデンテーブルに移動しクリシェン院長から話を聞くと、最近メーアブルグでも王都向けの魚の売れ行きがよく日雇いの仕事も順調にあると言う。


王都でも、最近ガラス瓶職人や鍛冶職人の見習い募集が多くなり活気が出てきているとクリシェン院長は嬉しそうにアデライーデに話してくれた。

経済に活気が出れば、それだけ孤児たちの就職の機会が増えるからだ。



--ガラス瓶の職人募集って炭酸水の瓶の事よね。結構役に立っているのね。良かったわ。



ちょっとは皆の為になっていると、陽子さんは思っているようだが、実際は陽子さんが思っている以上にバルクの経済は動いている。


「院長!おいででしたか」

屋台の人出が一息つき、クリシェン院長に気がついた男の子とクリシェンが話している間、アデライーデはアルトに声をかける。


「ねぇ、アルト。フイッシュアンドチップスのレシピを孤児院へ贈ってもいいかしら」

「レシピをですか?よろしいのでしょうか」


「ええ、メーアブルグにはお魚は沢山あるし市場でも焼くか酢漬けが多かったから、手軽に手に入れられるお魚でフイッシュアンドチップスが流行れば、もっと売れると思うわ。それに見て」


アデライーデが指差した先では、フライドポテトが売れているのを見て真似て鍋で揚げて出している屋台が2、3あった。



真似するほどフライドポテトに人気があるのがわかる。いずれあちこちで同じような屋台が出てくるだろう。せっかく港町なのだからフイッシュアンドチップスの方が食べる方もだが、魚が売れれば漁師にも喜ばれるはずだ。



「人気が出れば、王都からも食べに来たいと思う人が来ると思うわ」

「確かに賄いでも人気でしたから、流行るとは思いますがアルヘルム様達にお伺いしてからの方がよろしいかと」

「そうね。今度アルヘルム様にお話してみるわ」



アルトはレシピの重要性を知っている。アデライーデは気軽に教えるが、ここで孤児院へ贈って良いかはアルトには判断できなかったのだ。



「アリシア様。子供たちからぜひ召し上がっていただきたいと…」



クリシェン院長が大皿に載せたフライドポテトを手に持った女の子を連れて戻って来た。

アデライーデ達は出されたフライドポテトを摘みながら、代わる代わるお礼に来る子供たちと話をし、メーアブルグのお出かけを楽しんでいた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 気楽に、読める作品ですね。まるでコーラのよう! [一言] 油問屋は、悲鳴をあげているかも。(笑)
[一言] 話がかなり大きくなっていることを、陽子さんは知らない。 魚醤のお味はどうなんでしょうね~?
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