表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/415

134 適正価格と研究室


「もちろんですとも、適正価格で販売するのは重要な事です。それぞれ正しく値付けを致します」



タクシスはにっこり笑ってそう言うが、全然安心できない笑顔なのだ。きっと貴族用の適正価格なのだろう。価格を聞くのが怖くて聞けない。




「あの…ガーデンパーティ用の移動できるフライヤーをこの前作ってもらったのですが、それをメーアブルグの孤児院に寄付してもいいかしら」

「ガーデンパーティ用のフライヤーですか?」


「ええ、あれがあれば屋台ができると思うの。経済的に自立できれば寄付だけに頼ることも無くなるし、卒院した子達も仕事ができるかもと思うわ」



先日、メーアブルグの孤児院の院長クリシェンと昼食を共にした時、既に卒院した孤児たちの大半は日雇いの仕事しかなくぎりぎりの生活をしていると聞いた。



何日もまともに食べられない時は、孤児院で食事を施しているらしい。昼食のフィッシュアンドチップスと野菜スープを口にしながら、クリシェンはこのような温かい食事を食べさせてやりたいと言っていた姿が心に残っていた。



「良いと思うよ。仕事があるに越したことはない。治安も良くなるしね」

アルヘルムも寄付に賛成だ。職にあぶれた浮浪者が少なくなれば治安も良くなる。為政者として反対する理由がない。



「それではガーデンパーティ用のフライヤーは何台か至急作らせて孤児院に送るとしましょう」

タクシスも頷きながらコーラを手に取ると、一口飲んでグラスをテーブルに置いた。



「ところで…アデライーデ様。今飲んでいるコーラもですが、レシピはアデライーデ様の母君のご実家のものなのでしょうか?」



陽子さんはドキリとした。


陽子さんにとって、トンカツやコーラのレシピは作り慣れた日常のおかずのレシピだが、この世界では珍しいものだと言うのはわかっている。


貴婦人は料理をすることが無いこの世界で、次々に珍しい料理を繰り出してくるアデライーデが不思議に思われるのは仕方がない事だろう。



「ええ、まぁ…。そうです…わね…」

思いっきり、言葉を濁して目を泳がせながら曖昧に答える。



「アデライーデ様以外、ご存知ないのでしょうか?」

「ええ…。コーラのレシピは皇后様にお贈りしましたが…私以外は知らないかと…」


「ふむ…。皇后様であれば問題ないでしょう。レナードから報告を受けたのですが、レシピを離宮や王城でも使っても良いと仰せになったとの事ですが、各家に伝わる料理や薬のレシピはその家の秘伝。バルクで使ってもよろしいのでしょうか?」


「もちろんです。私はバルクに輿入れしましたし、他に知る者もおりませんのでレシピが役に立つのであれば、使って頂けると嬉しいですわ」

「アデライーデ…。貴女は…本当に」

「……!」



隣に座っていたアルヘルムは、アデライーデの言葉を聞いていきなりアデライーデを抱きしめた。



陽子さんが思う以上に、この世界でのレシピは貴重なのだ。お金に困った貴族が、秘伝のレシピを高値で売ることもままあるこの世界では、レシピを子女の輿入れ先にも教えないのが常識だ。


しかも、誰も見たことも聞いたこともない珍しいアデライーデのレシピはとんでもなく利益を生み出す可能性がある。

それをバルクの為にあっさり使ってほしいと言うアデライーデにアルヘルムは感動していた。



「アルヘルム様!アルヘルム様、離してください!何するんですか! 皆の前で!」

「抱きしめただけじゃないか…」



アデライーデの言葉に感動して抱きしめたのに、アデライーデから拒否られて少しシュンとしたアルヘルムだが、タクシスやレナード達がいる前で、いきなり甘い雰囲気で抱きしめられるなんて陽子さんには受け入れられない。



「……陛下。会議中ですのでお控えください。後ほどおふたりの時にお願いいたします」



ジタバタとアルヘルムの腕を振りほどき、距離を少し置いて座り直したアデライーデを見ながらタクシスはアルヘルムに冷たく言い放つ。


「では、コーラのレシピはバルクの秘伝とし、商会から売り出そうかと思いますがよろしいのでしょうか」

「ええ、お願いします」



「ところで…他にもレシピはございますか?」

タクシスは、にっこり笑いながらアデライーデに問いかける。

「ええ…まぁ…」



--あると言えばあるわよ…。それなりに主婦してたし。

でも、あるもので適当に作る「名も無き料理」が1番得意なんだけどね…レシピになるかしら。



「陛下と話していたのですが、この離宮にアデライーデ様の研究室をお造りしようかと思うのですが」

「研究室…ですか?」


「貴女が、レシピを自由に考えられる部屋だよ。レナードが貴女が厨房に行かなくともレシピを試せる部屋が必要だと言うのでね」


アルヘルムはそう言ってレナードの方を見る。

アデライーデが振り返ると、レナードは咳払いを1つした。



「貴婦人は、厨房に出入りするものではございません。しかし、レシピの研究の為であればそれなりの施設は必要かと思います」



レナードなりの妥協点なのだろう。

研究室という名のアデライーデ専用の厨房を離宮に造ってくれると言う。後日、厨房の隣の部屋を改装して、アデライーデの研究室という名の小さな厨房が造られた。



そのアデライーデの厨房に設置されたフライヤーは、アリシア商会第一号のフライヤーだったのは言うまでもない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] アデライーデは自分専用のキッチンを手に入れた!! これで遠慮なく料理が作れますね。
[一言] レシピ再現に欠かせない料理の消費者が子供達や孤児院組など大勢居るから作る事には問題無さそうですね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ