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104 言い訳とラインハート



翌朝、いつものように着替えを済ませ朝食の為に居間へ移動すると、レナードが出迎えてくれた。


「おはよう、レナード」

「おはようございます。アデライーデ様」

「アルヘルム様は?」

「ラインハート様と朝の鍛錬をされております。もう少ししたらいらっしゃるかと…」


レナードが言うには、アルヘルムは毎朝1時間ばかり剣の稽古をするのが子供の頃からの習慣らしい。元々身体を動かす事が好きで王子でなかったら騎士になりたかったそうですとレナードが教えてくれた。


「お小さい頃からアルヘルム様は変わりませんな」

「そうなの?」

「よくブルーノ殿とこの様に城を抜け出して、城下町に出かけておられましたな。最初のうちは私共も血相を変えて一晩中探し回ったものです」


今のアルヘルムからは想像もつかないが、結構なやんちゃさんだったようだ。将軍様うえさまや王様はお忍び好きらしい。

そのうちレナード達はアルヘルムのお気に入りの場所を抑えて、城を抜け出したと聞くと心当たりの場所に部下を配置して見守るようになったと言う。



「まぁ…今は抜け出しても行き先は離宮ここですから、あの頃に比べると心配はないですからね」

レナードがそう話している時にアルヘルムが朝の鍛錬を終えて居間にはいってきた。


「おはよう」

「おはようございます。朝の鍛錬は終わりましたか?」

「あぁ、久しぶりにラインハートと鍛錬をしたよ」


アルヘルムは楽しそうにそう言うとテーブルについた。

二人で朝食を済ませ、アルヘルムに誘われて湖畔の散歩に出ると小鳥たちが賑やかにさえずっている。


「ここはのんびりしていて良いな」

「執務はよろしいのですか?」

「あぁ、終わりがないからね。やっていたらずっと執務室に籠もらないといけないから、たまにはいいんだよ」


「孤児院だけどね。離宮の端に建てたらどうかと思うんだ」

「よろしいのですか?」

「あぁ、その方が貴女も気軽に見に行けるだろう」

「ええ」

「運営は貴女の思うようにしてくれて構わない。でも、建設はこちらで手配してもいいかい?」

「でも…、…そうですね。どのような作りにするか相談してもよろしいのですか」

「もちろんだよ」


建設費も持参金から出そうかと思っていた。しかし、アルヘルムに頼って欲しいと言われていたのを思い出し、何もかも自分でするよりアルヘルムがせっかくそう言ってくれた気持ちも大事にするべきだとアデライーデは甘える事にした。


湖畔を散歩しながら孤児院の話をし、アルヘルムは城に帰っていった。

もっとここに居たいが、戻らないとタクシスから怒られるからとアデライーデの頬にキスをして。


城に戻りオリスを馬丁に預け、誰にも見られないように執務室に戻ると、仏頂面のタクシスが、ソファでアルヘルムを待ち構えていた。



「陛下、お楽しみいただけたかな?」

「おはよう。ブルーノ、昨日は悪かったな」

「本当にそう思ってなどない癖に!なんで俺がお前の仮眠室に泊まらなきゃならんのだ」


タクシスはそう言うと、お忍びの服を着替えたアルヘルムに書類の束を差し出した。アルヘルムはそれを受け取り目を通していく。


「あぁ、ブルーノ、今度離宮に孤児院を建てようと思うんだ」

「はぁ?」

「これを見てくれ」


アルヘルムが差し出したのはアデライーデが作った試算書だ。タクシスは試算書を受け取るとじっくりとそれを見ながらアルヘルムに問いかけた。


「これを作ったのはアデライーデ様か?」

「そうなんだ。よくできているだろう」

「堅実な予算だな。文句のつけようがない」

「それとは別にメーアブルクの孤児院に寄付をしたいそうだ」


「……ふーん、いくら?」

「国が孤児院に寄付をしている金額の2/3だそうだ」

「目立たぬようにか?」

「あぁ」

「それで、離宮の孤児院の建築費だけは私の私財から出そうと思うんだ」


「私財から出すのであれば、俺は何も言えないな…。皇女様の影響か?」

試算書から目を離さずにタクシスはそう言うとニヤリと笑った。


「彼女にだけ私財を出させて、王である私が何も出さないと言う訳にはいかないからな」

「楽しそうだな。離宮に行って何かあったか?」


「彼女が持参したレシピの料理を食べたよ。フイッシュアンドチップスという油で揚げた料理なんだが、とてもうまかった。それにレナードの報告書にもあったコーラやライムモヒートと言う飲み物もだ。今度お前も離宮に連れて行ってやるよ。気にいると思うぞ」

「それは…ごちそうさま」


……惚気かよ。


「それにフィリップと会った。フィリップも時々離宮に行っているようだ」

「フィリップが?」

「遠乗りの稽古らしい。離宮のラインハートの所で剣の稽古もしているようだ。知っていたか?」


ちょっと待てと言って、書棚からギュンター・マルツァーンの報告書を取り出すと、確かに書いてある。


××月××日

遠乗りの稽古。ラインハート隊と剣術稽古含む



ギュンター・マルツァーンは離宮とは書いてないが、ラインハート隊は離宮の警備隊だ…。

「行ってるな。気が付かなかった」


「ラインハートからフィリップの腕が上がったと褒められたよ」

「珍しいな。世辞は言わないあの男が」

「あぁ、それにその時に稽古の見学をしていたアデライーデが差し入れをして兵たちの士気が上がったとも言っていた」

「まぁ、貴婦人が見学に来るなんて滅多にないからな。良いことなんじゃないか」


「士気が上がるのは良いことだよな」

「………なんだ?」

「朝の鍛錬をラインハートとしてな、兵たちの士気が上がるから王も時々来てほしいと言われたんだ」

「お前…」



親子して離宮に行く口実に使われているとは、ラインハートは知る由もなかった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 王宮から料理が広まるのは、文化面でも王室の権威を高めそう(他所のなろう小説でもそういうこだわりがあった)。 そして、炭酸水は特産品として村を潤してくれるのかな? 孤児たちの教育のことといい…
[一言] >ギュンター・マルツァーンは離宮とは書いてないが、ラインハート隊は離宮の警備隊だ…。 「行ってるな。気が付かなかった」 優秀そうなタクシスがソレに気付かないとは……。 彼は名探偵にはなれそう…
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