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21. 痛みに鈍感なのは私の悪い癖ですね

「自信を持ってください。

 国にいるSランクの魔術師より、ミリアお嬢様から頂いた結界の方が心強いです」


 これからも出来るだけレオナルドの力になれるように。

 喜んで貰えるように力を磨き続けよう――私は、改めてそう決意するのでした。



 昨日の不意打ちの反省を活かします。

 毒や麻痺など、体に異常をきたすものは勝手に浄化するようになったはずです。

 さらには国を覆っていた結界の強度を、出来るだけ保ったまま付与。 

 さらにはレオナルドの魔力との同調率を上げて効率を高めていきたいところですが――残念ながらここで魔力切れ。



 つい夢中になりすぎたようです。

 ふらふらっとしながら、


「魔力を使い過ぎました。

 少しだけ待って下さい――すぐに回復させますから」


 ふところから魔力を回復させるための器具を取り出します。

 いつでも訓練出来るようにと、教会から押し付けられた一品です。


 魔力の回復には痛みが伴いますが、そのぶん効果はてきめん。

 魔力奉納で無理やり使われた日々は地獄のようでした。

 それでも結界の外にいる今、魔力を回復する手段は非常に貴重です。



「おやめください、ミリアお嬢様」

「な、なんですか?」


 いつものように器具を体に取り付けていると、レオナルドが険しい顔で見つめてきました。


 体の痛みは、回復した魔力が体の中で暴れまわっているから起こるもの。

 魔力が回復した後しばらくじっと我慢していれば、痛みはすぐに収まります。




「そんなものを使う必要はないんです。

 それがどんな目的で作られたか、ミリアお嬢様は知っていますか?」


 目的もなにも、魔力を回復させるためなのでは?


 レオナルドが器具を取り上げようとしますが、私はそっと拒否。

 これからの旅が危険であるなら、魔法を使う機会も増えるでしょう。



「普通に魔力を回復させるためですよね?」

「……もともとは取り調べに使う拷問道具でした。

 魔力を暴走させて隣国のスパイの口を割らせるためのもの。

 魔力の回復は、たまたま見つかった効果だそうです」


「あ、まさか。

 何かの間違いじゃないですか?」

「真実です。研究員が話しているのも聞きましたから。

 体の魔力をすべて抜き取り、暴走させた魔力を体に戻して魔力を回復させる。

 そんな行為を何回か経験しただけで、誰もがあっさりと口を割ったそうですよ?」


 体から魔力を抜き取り、強制的に魔力を体に戻す――どこかで聞いた話ですね?

 思わず乾いた笑みが出てきます。



「罪人から魔力を搾り取るための手段としても、使われていました。

 教会による人体実験――恩恵もあるので見逃されていましたけどね。

 罪人の中には、そのまま発狂する者もいたとか。

 奴らはおもしろ半分で、そんな器具を毎朝ミリアお嬢様に使っていたんですよ」


 聞いていて気持ちの良い話ではありません。

 その非人道的な行いも、教会は自らの功績として誇らしく語っているのでしょう。

 市民の協力により実現された技術に、聖女の献身によって得られた魔力。

 とんだ美談です。



「分かりましたか?

 国を開放された今、ミリアお嬢様がそんなものを使う必要はありません」


 痛みに耐える私を、やるせない思いで見ていたというレオナルド。

 たしかに全身を苛む痛みにはいつになっても慣れません。

 それでも……これが優秀なことに違いはありません。


「この器具には、何か害があるのですか?」

「魔力の暴走は、制御できるなら問題ないと聞いてます。

 伴う痛みが激しいだけで、特に害はないと思いますが……」



 作られる過程がどんなものであっても、こんな便利なものは使わない手はありません。


「なら、特に問題はありません。

 痛いのには慣れっ子です」


 旅には危険が付きものです。

 この状態で贅沢は言っていられません。


 魔力を使い切って、強引にでも補充。

 回復した魔力を、すぐに放出する――そんな魔力の行使の繰り返しで、私の魔力が底上げされたのは事実です。

 


「騎士団でも有効活用できないか、という話が出たことはあるんです。

 騎士団に所属する大男が痛みに耐えかねて、みんな途中でギブアップしたんですよ?

 慣れちゃダメですよ。そんなの……」


 レオナルドは泣きそうな顔で、そう言いました。

 その表情があまりにも悲しげで――


(そうですよね。

 そんなことしても、レオナルドが喜ばないことは分かってるのに……)



 これまでの生活のせいで、痛みに鈍感になってしまっていること。

 自分のことを二の次にしてしまうのは、私の悪い癖です。



「レオナルドがそう言うのなら。

 普段は使わないようにします」


 それがレオナルドの望みなら。

 それでも――



「必要なときが来たら、私は躊躇なくこの力を精一杯使います。

 使うべきだと思ったら、この器具だって使いますよ?」


 レオナルドの足手まといにならないことは絶対条件。

 そう言って私は、器具を懐に戻します。



「そんな日が来ないように――やっぱり僕は、剣の腕を磨き続きます」


 そう言うレオナルドですが、今度は私を止めることはありませんでした。



 そんな会話を終えて。

 私たちは、簡易結界を後にするのでした。

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